経営戦略は企業が継続的に利益を得て、優位にビジネスを進めるうえでは非常に重要な考え方です
中小企業は特に大企業より小規模であるということを考慮して、経営戦略を考えていく必要があります
本記事では中小企業の経営戦略に関して、
- 戦略はなにからなぜ経営戦略が必要なのか
- 大企業と違いリソースが限られている中小企業だからこそとるべき戦略
- 中小企業の戦略を実現するための戦術
を解説します
経営戦略とは
戦略という考え方はもともと戦争の際にどうやったら勝てるか、そのための策略からきています
一方でビジネスの世界では、経営戦略とは目的を達成するために資源(リソース)を配分する選択のことを意味します
つまり、自社の限られた経営資源を目的の実現のために如何に適切に配分するか、資源配分を決めることが経営戦略です
経営資源(リソース)の代表例として、ヒト、モノ、カネ、情報があります
言い換えると、戦略とはこれらの経営資源である、ヒト、モノ、カネ、情報をどこに集中させるのかを選択することです
- ヒト:社員のもつ経験・知識・ノウハウなどのことです。また、社員だけでなく、経営者や役員も含みます。
- モノ:会社が持っている物理的な物を指します。物理的な物には工場や事務所、各種設備だけでなく、ソフトウェアも含みます。
- カネ:言葉どおり、金を意味します。
- 情報:会社が持っている無形財産です。顧客情報や実験データなどが含まれます。市場情報や消費者のニーズなどはマーケティングをする上では非常に重要な情報になります。
経営戦略の必要性
経営戦略が必要な理由は、2つあります
- 会社の資源は有限で常に不足している
- 達成すべき目的がある
どんなに大きな会社でも経営資源は無限にはありません
大企業の場合は事業領域が広いため、必要な経営資源も多く必要となります
対して中小企業はヒト・モノ・カネ・情報がすべて不足していることが多く、特に事業を拡大するうえでヒトがネックになることが多いでしょう
不足した資源の中で目的を達成するためには、どこにどれだけの資源を配分するか、何に集中するかを選ぶ必要があります
この経営資源の配分こそが経営戦略であり、経営を進めていくうえで最も重要な考え方です
集中する領域を決めず、すべてに資源を配分することはもっとも愚かな経営戦略であり、中小企業が行った場合、たちまち資源が枯渇して苦境に立たされてしまうので注意しましょう
企業にとっての目的とは、各企業がそれぞれが成し遂げたいミッションを実現することです。
また、ピーター・ドラッカーは企業の目的は、顧客を創造することだと定義しています。つまり顧客の集合体である市場を作り出すことこそが企業の目的であるとしています。
経営戦略と経営戦術の違い
戦略は目的を達成するための資源配分の選択に対して、戦術は戦略を実行するための具体的な方法となります
前述のように企業にはそれぞれがめざすための目的があり、それを実現するための経営資源の配分が「経営戦略」です
「経営戦術」はその経営戦略を実現する手段となります
中小企業と大企業の違い
次に中小企業の経営戦略を考えるための前提として、大企業と中小企業の違いを整理しましょう
大企業と中小企業の違いをまとめると以下の表になります
違い | 大企業 | 中小企業 |
---|---|---|
資金 | 潤沢 | 少ない |
人材 | 優秀・多様な人材が豊富 | 少ない |
設備 | 大型・高性能・豊富 | 最低限 |
情報 | 市場情報・顧客情報が豊富 | 限られた情報のみ |
知名度 | 高い | 小さい |
固定費 | 高い | 少ない |
意思決定 | 遅い、保守的 | 早い、積極的な判断も可能 |
それぞれ順番に解説します
経営資源の違い
大企業は中小企業と一般的に資金力があり、多くの営業人材を備え、店舗販売の場合は大型店舗を持ち、大規模な広告宣伝などをすることができます
また、大企業は製品企画や製造にも人材、設備などを十分に保有しています
そして多くの顧客や関係者から市場から多くの情報を得ることができます
ヒト・モノ・カネ・情報の観点では経営資源において、中小企業よりもはるかに勝っているでしょう
しかし、その一番の課題として多量の経営資源を維持するためには固定費がかかるため、一定規模の売上がこれらの資本を賄うための必ず必要になります
つまりニッチな限られた客層(ターゲット)を対象にすると成り立たなく、一定規模を客層を対象にする必要があります
知名度
大企業は中小企業よりも一般的には知名度が高く、その知名度を活かして商談の獲得や有望な人材の採用も比較的容易です
中小企業は大企業と同じ販売方法をターゲットを狙ってしますと、知名度で勝る大企業に勝つことはできません
知名度を補うために大規模な広告を打つことも、資金力で勝る大企業に対しては無謀ですので得策ではありません
中小企業は知名度に頼らない戦い方が必要となります
意思決定
大企業は一般的に意思決定者が非常に多くいて、一つの意思決定をきめるのにも時間を要します
また意思決定の段階で保守的な意見がでてきて、どうしても積極的な判断をすることが難しいことが多々あります
一方で中小企業では意思決定者は経営者または限られた少人数で行われることが多く、速い意思決定を行うことができます
また意思決定者の性格にもよりますが、積極的な判断を行う事への障壁も低いでしょう
中小企業が行うべき経営戦略
大企業と中小企業の違い見てきましたが、中小企業は経営資源や知名度で劣る一方で、固定費が小さく思い切った意思決定も可能です
固定費が小さく身軽な中小企業は大企業が狙うような広い顧客層を狙う必要はありません
むしろ大企業が狙わないようなニッチな顧客層を狙うことで大企業のとの直接の競合を避けることが必要です
そのうえで、自社の強みを活かせる高付加価値な領域を目指すのがよいでしょう
戦略の基本的なフレームワークであるポーターの基本戦略で、中小企業への最適な戦略を考えていきましょう
ポーターの基本戦略:中小企業が撮るべき戦略は差別化集中
ポーターの基本戦略とは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターが提唱をする競合他社に勝つための戦略を示したものになります
その戦略は二軸で定義され、コスト・リーダシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つに分けれます
また集中戦略はコスト集中化、差別化集中の2つに分けて考えます
二軸の考え方
- 競争優位:
- 他社より低コストにして差別化
- コスト以外での差別化
- 戦略ターゲット:
- 多く顧客層をターゲットとする
- 狭い顧客層をターゲットとする
前述のように中小企業は戦略ターゲットを広くとる必要はありません
大きな固定費を回収して利益を上げるために大企業は大きな売上が必要となり、結果として広い顧客層がターゲットとなります。
中小企業は大手企業との直接の競合を避け、ニッチなターゲットに集中することでビジネスを優位に進めることができます
また価格に関しては、人件費などの観点で中小企業のほうが安い場合もありますが、安易に価格勝負にしてしまうと価格での競争力がなくなってしまった場合、すぐにさらに安いところに切り替えてしまうため非常に不安定なビジネスになってしまいます
当然価格勝負のほうが利益率も低く、実入りも少ないでしょう
そのため中小企業がとりたい理想的な戦略は差別化集中戦略となります
差別化集中戦略は利益率が高い
実際に中小企業の戦略別での営業利益を比較しても、ターゲットを絞り価格以外で差別化した差別化集中戦略をとった中小企業は他の戦略をとった企業よりも高い利益水準を得ることができています
なお、特定の層に経営資源を集中させて、差別化して戦う差別化集中戦略は、弱者の戦い方を示したランチェスター戦略と方向性は同じです
中小企業の2つの重要戦術
中小企業のとるべき経営戦略は差別化集中戦略であることを説明してきましたが、ここからは実際にその経営戦略を実現するための戦術を解説します
戦術1:ターゲットに絞る
ターゲットを絞る観点としては
- ニッチでマニアックな顧客層
- 小さい会社・店が好きなユーザー
- 特定地域向け
があります
ニッチでマニアックな顧客層
ニッチなマニア向けの製品などに特化して普通に人は中々買わないが、ごく少数に人には刺さる製品やサービスを提供することで、大企業ではなかなか入りずらい市場で優位に戦うことができます
小さい会社・店が好きなユーザー
チェーン店や大型店舗よりも小さいお店に魅力を感じる顧客層も一定程度います
小さいお店ならではのコミュニケーションや品揃え、顧客同士のコミュニティなどに惹かれる層です
そういったユーザーをターゲットにすることも選択肢です
特定地域向け
特定地域向けの考え方は、例えば東日本→東北→山形→xx市と対象となる地域を絞ることでその地域内で有利な戦い方を目指します
地域密着型のサービスやその地域内でのネットワークを活かした営業活動などがこの考え方にあたります
戦術2:差別化する
ターゲットを絞ったらその顧客層向けに製品・サービスを特化して他の企業と差別化する必要があります
差別化するポイントとしては
- 製品・サービス
- 品揃え
- 顧客との関係性
などがあります
製品・サービス
製品・サービスを従来よりも品質を向上させたり、非常に高価なものを提供したりして差別化する方法です
また、特定の用途に絞って他の機能を削る、非常にマニアックなニーズに応えるためにサービスや製品を提供するといった、絞る・ずらすの観点も有効になります
品揃え
品揃えで差別化するポイントは、幅広いラインナップではなく、
狭く深くすることで専門性も持たせ差別化することができます
例えば書店の場合、歴史書だけラインナップするなど特定のジャンルでの販売をするなどが該当します
この店に来れば、一通りのラインナップがそろっていると思わせることで、特定のジャンルの製品が欲しいという顧客層に訴求することができます
顧客との関係性
密な顧客とのコミュニケーションを売りにして差別化する方法です
常連客や地域のネットワークの中での顧客と深い関係性を築き、固定客としてリピートしてもらうことで安定的なビジネス基盤の獲得を図ります
まとめ
中小企業がとるべき経営戦略は顧客層を絞り、価格以外で差別化を図る差別化集中戦略です
差別化集中戦略を実現するためには、①ニッチでマニアックな顧客層、②小さなお店が好きな人、③地域の視点でターゲットを絞り、①製品・サービス、②専門性の高いラインナップ、③顧客との密な関係性などのポイントで差別化する必要があります