中小企業診断士は、独立していないと活躍できないのでしょうか?
実は中小企業診断士資格を持つ人の中で、企業に所属し活動している中小企業診断士(以下、企業内診断士と呼びます。)は約半数を占めます。中でも、現役世代である60歳以下の割合は、約70%とさらに多くなります。(中小企業診断協会調べ)
企業内診断士の中でも、中小企業診断士として精力的に活動して、高い成果を上げている方も一定数います。
この記事では、企業内診断士の実態と、本業と両立するためのポイントを3つに絞って解説します。
企業内診断士の責任と役割
まずは、独立診断士と企業内診断士の違いを考えていきましょう。
企業内診断士は特定の企業に雇用されており、その身分が保障されています。
企業の後ろ盾がある中で活動できるため、収入面や社会保障面において心配する必要がほとんど無いのは、個人事業主である独立診断士との大きな違いです。
反面、雇用主である企業の所属しているため、例えば平日昼間の活動が難しいなどの診断士活動の制約があります。
さらに企業によっては、収入が発生する副業への従事が認められず、より診断士活動に制限がかかることもあります。
企業内診断士の中には、副業が認められず、確定申告が不要な年間20万円以下の収入になるよう活動をセーブしていたり、ボランティアでの活動のみに従事する方も一定数います。
独立診断士 | 企業内診断士 | |
収入面での安定性 | △ 成果次第で収入が不安定になることも | 〇 本業での収入があるため |
時間的な制約 | なし | 活動が平日夜間・土日などに限定 |
仕事のメイン | 中小企業診断士活動 | 所属企業での活動 (中小企業診断士活動は副業) |
ただ、企業内外での活動を通じ、本業と診断士活動双方に良い影響(シナジー)を与えることができるのは、企業内診断士のメリットの一つです。
加えて、診断士間のコミュニティに参加することで、良い意味で刺激を得ることができ、視野の拡大やスキル向上につなげられることもメリットとなります。
企業内診断士の実態
企業内診断士は、普段どのような活動をしているのでしょうか。ここでは、所属企業内と中小企業診断士(所属企業外)としての活動に分けて説明します。
所属企業内における活動
所属する企業において、企業内診断士が従事する業務は多岐に渡ります。経営企画や経理といった中小企業診断士が持つスキルが直接活かせる業務もあれば、営業やSE等培った知識を間接的に業務に役立てている方もいます。
資格取得により、より視野の高い目線で仕事ができるようになった。
昇給や昇進、転職でのPRにつながった。
経営企画部やマーケティング部など、希望部署への異動が叶った。
いずれにせよ、中小企業診断士で習得した知識は、企業活動全般を俯瞰して見ることのできるものです。大局的な視点と各自が持つ業務の専門性を融合させることで、仕事の質も上がり、社内での評価も高まっていくことでしょう。
中小企業診断士としての活動(所属企業外)
前述のように、企業内での中小企業診断士の活動には、時間的な制約があります。
その中で比較的活動しやすいのは、
- 補助金申請
- 執筆
- セミナー講師
といった活動です。
順番に解説します。
なお、診断士全体の仕事内容に興味があるかたはこちら。
1. 補助金申請支援
「事業再構築補助金」「ものづくり補助金」「小規模事業者持続化補助金」といった各種補助金の申請代行を行います。
中小企業診断士は経営や財務に関わる深い知識を持ち、事業計画書の作成に必要な能力を兼ね備えています。補助金申請には事業計画書の添付が必要となるため、質の高い計画書を作成できる能力を持つ中小企業診断士のスキルが活かせる業務であると言えます。
事業者への正確なヒアリング力や課題の整理力、文書作成能力等が求められますが、経営診断経験の少ない企業内診断士でも中小企業経営と深く関わることができる、大変有意義な業務です。
報酬は着手金に加え、採択時の成功報酬が一般的です。
<中小企業向けの主な補助金>
事業再構築補助金
https://jigyou-saikouchiku.go.jp
ものづくり補助金
https://portal.monodukuri-hojo.jp
IT導入補助金
小規模事業者持続化補助金
https://r3.jizokukahojokin.info
2. 執筆活動
執筆活動は、平日夜間や土日などでも活動できるため、企業内診断士でも取り組みやすい業務の一つです。
執筆の内容は非常に多岐に渡ります。
- 「企業診断ニュース」等、中小企業診断協会の刊行物への寄稿
- 業界紙や民間調査会社の刊行物への寄稿
- 中小企業診断士の受験生向けテキストの執筆
- 各種Webサイトやブログの執筆
中小企業診断士は論理的な文章を書くスキルが高いため、執筆は資格取得してすぐに取り組むことができる活動と言えます。中には、執筆や取材スキルを学ぶ講座を受講し、更なるスキルアップを目指す方もいます。
報酬は案件によってまちまちですが、記事1本いくらの契約となることが多いです。ただし、執筆の単価は他の業務と比べて高くありません。ブランディングや集客のために実施している人も多いのが実態です。
3. セミナー講師
各自が培ってきた専門スキルを活かし、セミナー講師として活躍する企業内診断士も多いです。
コロナ禍を経て、オンライン環境の整備が進んだこともあり、対面型だけでなくオンライン型でのセミナー開催も一般的になってきました。平日夜や土日の開催にすれば、企業内診断士でも無理なく活動できるでしょう。
セミナー自体は何を語っても大丈夫ですが、受講生のニーズに合ったテーマでなければ集客は難しいです。「こくちーずプロ」や「ストアカ」といったセミナー開催のポータルサイトを活用し、どんな内容のニーズが高いのか研究した上でセミナー設計をしていくことが重要です。
セミナー報酬には有償と無償の2パターンがあります。
無償の場合は、セミナー参加のハードルを下げて参加人数を増やすことで、見込み客を獲得することが目的となります。いわゆるフロントエンドからバックエンドへ、というマーケティングファネルの考え方です。
具体的には、フロントエンド=無償の事業計画セミナーで集客を行い、見込み客の育成を図ることで、バックエンド=補助金申請案件や顧問契約の獲得に繋げる、といった形です。
見込み客に対し、自分が本当に提供したいサービスを販売できるよう、しっかりと導線づくりを行いましょう。
<セミナー集客に役立つサイト>
こくちーずプロ
ストアカ
https://www.street-academy.com
本業と両立をするための3つの掟
企業内診断士における中小企業診断士としての社外活動は、土日や平日の夜間対応が中心となります。
そのため、時間が限られていて、且つ活動を増やすとプライベートの時間が犠牲になります。
どうすれば、中小企業診断士の業務と本業を両立することができるのでしょうか。
ここでは、先輩企業内診断士へ聞いた独自のアンケートを基に、ポイントを3つに絞って解説していきます。
一.時間管理と優先順位の設定
「副業を行う時間を確保して取り組む。仕事は請け負い過ぎない」
「平日は朝1時間だけ、土日だけ活動する等、やれる範囲で無理せず計画的に取り組む」
「会社と診断士活動で忙しくなりすぎてしまうとパフォーマンスが下がるので、オフの日を積極的に作る」
企業内診断士である以上、本業ありきの診断士活動となることは避けられません。時には、深夜や休日に活動せざるを得ない時もあるでしょう。
そのような中でも、診断士活動に割く時間は予め決めておきましょう。仮に1日1時間と決めたなら、それ以上はやらない。
適度な休息も業務の両立には不可欠です。自分の限界を超えて取り組むのは悪手以外の何物でもありません。
また、業務に優先順位をつけ、計画的に取り組むクセをつけておきましょう。
優先順位は業務の重要度と緊急度を天秤にかけ、重要度の高い業務は予め時間を確保した上で取り組むと、アウトプットの質も高まることでしょう。
二.スキルの向上と情報収集
「現職と診断士活動を紐づけて活動できるようにしている」
「勉強会に出た時には可能な範囲で社内にも共有し、現業へのシナジーにも活かしている」
「仕事の話が来たら積極的に手を挙げて参加。未経験の業務こそ学びがある」
企業内診断士は社内業務に専念するあまり、専門分野以外の知見やスキルを伸ばす場がどうしても限られがちです。外部セミナーや社外業務に積極的に参加し経験を積むことで、診断士スキルの向上が図られます。
また、普段の業務では知り合うことのない業界の方との交流を持つことで、最新の情報収集も可能となります。
これらを社内業務に還元すると共に、社内で培った専門知識を社外に活かす。
この双方向のスキル活用が、企業内診断士が社内外での業務遂行能力を高めるポイントとなります。
三.周囲とのコミュニケーション
「本業側と家族の理解を得る努力を怠らない」
「本業をおろそかにしない。成果を出していれば、有休や時差出勤も認めてもらいやすくなり、診断士活動にも取り組みやすくなる」
「本業でも成果を出しつつ、診断士活動としてこんなことをしている、こんなことでシナジーがあるという点を会社にもアピールしておく」
企業内診断士にとって、あくまでメインは本業です。所属する企業との関係が良好であることが両立の必須条件と言っても過言ではありません。
本業に真摯な姿勢で取り組み、しっかりと成果を出すことで、社外での診断士活動も認めてもらいやすくなることでしょう。
また、家族やパートナーからの理解も非常に重要です。普段からコミュニケーションを取り、独り善がりにならない活動を心がけましょう。
まとめ
これまで、企業内診断士の実態と、本業との両立のポイントについて解説してきました。
先の先輩診断士のアンケートによると、将来的に独立を考えている企業内診断士は約3割でした。まだわからないと答えた方も含めると、約8割の方が中小企業診断士としての立ち位置を今後どうしていくか悩んでいることがわかります。
企業内診断士は、社外での診断士活動だけでなく、本業においてもスキルアップができる場を与えられた、中小企業診断士として非常に価値のある存在です。
将来的に独立を考えている方も、引き続き企業内で活動していこうと考えている方も、自分が目標とする中小企業診断士像に近づけるよう、日々の研鑽を怠らずに頑張っていきましょう。