令和6年度補正予算において、中小企業・小規模事業者向けの支援策が大幅に拡充されました。今回の補正予算では、特に成長志向型企業への手厚い支援と新事業展開のサポート強化に重点が置かれています。デジタル化や生産性向上、事業承継など、現代の中小企業が直面する様々な課題に対応するため、新たな補助金制度の創設と既存制度の拡充が行われました。本ガイドでは、これらの支援策について、申請要件や補助内容、活用のポイントを詳しく解説していきます。
新設された補助金制度
商工会と商工会議所。どちらも地域経済支援のために活動する組織ですが、その役割には若干の違いがあります。この項では、その違いをわかりやすく説明します。
中小企業成長加速化補助金
中小企業成長加速化補助金は、売上高100億円への飛躍的成長を目指す中小企業を対象とした、意欲的な新制度です。この補助金は、工場や物流拠点の新設・増築、イノベーション創出に向けた設備導入、自動化による革新的な生産性向上など、企業の大胆な投資を後押しすることを目的としています。
補助上限額は5億円と、中小企業向け補助金としては極めて大規模な支援となっており、補助率は2分の1に設定されています。申請にあたっては、売上目標や具体的な施策をポータルサイト上で公開することが求められ、企業の成長計画を対外的にコミットメントする必要があります。また、1億円以上の投資額と賃上げ要件を満たすことも条件となっています。
この補助金は、中小企業の積極的な事業展開と成長を強力に支援する制度として期待されており、第1回公募は2025年3月に開始される予定です。申請を検討する企業は、事前に詳細な成長戦略と投資計画の策定を進めることが推奨されます。
出典:中小企業庁「中小企業成長加速化補助金」
中小企業新事業進出補助金
中小企業新事業進出補助金は、既存事業の枠を超えて新市場開拓や高付加価値事業への進出を図る中小企業の設備投資を支援する制度として新設されました。この補助金は、企業の多角化や事業構造の転換を促進し、持続的な成長を実現することを目指しています。
補助上限額は企業の規模に応じて設定され、従業員数により2,500万円から7,000万円の範囲で支援が行われます。特筆すべき点として、大幅賃上げ特例を適用する事業者については、補助上限額が3,000万円から9,000万円まで引き上げられます。補助率はいずれの場合も2分の1となっています。
申請企業には、具体的な成果目標として、付加価値額の年平均成長率4.0%以上の達成が求められます。加えて、従業員の処遇改善に関する要件として、給与支給総額の増加や最低賃金への30円以上の上乗せが必要です。また、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の公表も必要となります。これらの要件は、企業の成長と従業員の待遇改善の両立を図る観点から設定されています。
本補助金の公募開始は2025年4月を予定しており、3年から5年の事業計画に基づいて申請を行うことになります。新規事業への進出を検討している企業にとって、有力な投資支援の選択肢となることが期待されています。
出典:中小企業庁「中小企業新事業進出補助金」
既存補助金の主な変更点
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)
ものづくり補助金では、令和6年度補正予算において、複数の重要な制度変更が行われました。まず、給与支給総額に関する要件が見直され、年平均成長率の基準が1.5%から2.0%へと引き上げられました。ただし、一人当たりの給与支給総額の成長率が、事業実施都道府県の最低賃金上昇率を上回る場合は、この要件を満たしたものとみなされる柔軟な運用が導入されています。
支援枠については、「製品・サービス高付加価値化枠」と「グローバル枠」の2種類に整理され、従来の「省力化(オーダーメイド枠)」は廃止されました。また、新たに最低賃金引上げ特例が設けられ、地域別最低賃金に50円以内で雇用している従業員が全従業員の30%以上を占める事業者については、補助率が3分の2に引き上げられます。
補助上限額については、特に従業員21人以上の中小企業を対象に引き上げが行われ、最大で3,500万円までの支援を受けることが可能となりました。さらに、従来実施されていた補助事業による収益に対する納付制度も廃止され、より使いやすい制度となっています。
出典:中小企業庁「ものづくり補助金」
IT導入補助金
IT導入補助金の拡充では、補助対象経費の範囲が大幅に拡大されました。従来の保守サポート費用等の導入関連費用に加え、IT活用の定着を促すための導入後の活用支援費用も対象となりました。これにより、企業のデジタル化をより実効性の高いものとすることが期待されています。
「通常枠」「複数社連携IT導入枠」「インボイス枠」のすべてにおいて、この拡充が適用されます。特に注目すべき変更点として、最低賃金近傍の事業者に対する支援強化が挙げられます。具体的には、3か月以上にわたり地域別最低賃金に50円以内で従業員を雇用している事業者で、該当する従業員が全従業員の30%以上を占める場合、補助率が3分の2に引き上げられます。
また、「セキュリティ対策推進枠」では、補助上限額が100万円から150万円に増額されるとともに、小規模事業者の補助率が3分の2に設定され、セキュリティ対策の強化が図られています。
出典:中小企業庁「IT導入補助金」
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金では、支援の枠組みが大きく見直されました。従来の「卒業枠」「後継者支援枠」が廃止される一方で、「共同・協業型」と「ビジネスコミュニティ型」という新しい枠組みが創設されています。
「共同・協業型」は、地域に根差した企業の販路開拓を支援する機関が地域振興等機関となり、10社以上の小規模事業者の販路開拓を支援する取り組みを対象としています。補助上限額は5,000万円と大規模な支援となっており、地域振興等機関に係る経費については定額、参画事業者に係る経費については3分の2の補助率が適用されます。
「ビジネスコミュニティ型」は、商工会・商工会議所の青年部や女性部などの内部組織を対象とした支援枠です。単独での申請の場合は50万円、2以上の補助対象者が共同で実施する場合は100万円を上限とし、補助率は定額となっています。この新設された枠組みにより、地域の事業者間の連携強化と、より効果的な販路開拓の実現が期待されています。
出典:中小企業庁「小規模事業者持続化補助金の概要」
事業承継・M&A補助金
事業承継・M&A補助金では、令和6年度補正予算において、名称変更とともに支援内容が大幅に拡充されました。まず、従来の「経営革新枠」が「事業承継促進枠」として再編され、5年以内に事業承継を予定している企業の設備投資等を支援する制度として整備されました。
また、M&A後の経営統合(PMI)に係る費用を補助する「PMI推進枠」が新設され、専門家費用や設備投資等の幅広い経費が補助対象となりました。補助上限額も全般的に引き上げられ、特にM&Aに関するデューデリジェンス費用については、トラブル防止の観点から最大200万円の追加支援が行われることとなりました。
さらに、100億企業の創出加速化を図る観点から、一定の要件を満たす場合には、「専門家活用枠(買い手支援類型)」において補助上限を2,000万円とする特例も設けられています。これらの拡充により、円滑な事業承継とM&A後の経営統合の促進が期待されています。
出典:中小企業庁「事業承継・M&A補助金」
中小企業省力化投資補助金
中小企業省力化投資補助金は、令和6年から開始された比較的新しい補助金ですが、令和6年度補正予算において更なる拡充が図られました。予算規模は1,000億円から3,000億円へと大幅に増額され、支援体制が強化されています。
従来のカタログ注文型に加えて、オーダーメイド形式の設備投資にも幅広く対応する「一般型」が新設されました。「一般型」では、ソフトウェアとハードウェアの両方が補助対象となり、より柔軟な設備投資計画に対応することが可能となっています。
補助上限額は従業員数に応じて設定され、750万円から8,000万円の範囲で支援が行われます。特に注目すべき点として、大幅な賃上げを実施する企業については、補助上限額が1,000万円から1億円まで引き上げられる措置が講じられています。補助率については、中小企業が2分の1、小規模事業者・再生事業者が3分の2となっています。
出典:中小企業庁「中小企業省力化投資補助事業」
まとめ
令和6年度補正予算における中小企業支援策は、成長志向型企業への積極的な支援、新事業展開の促進、生産性向上投資の後押しという3つの特徴を持っています。特に、売上高100億円を目指す企業への大規模な支援や、新事業進出、事業承継・M&A支援の強化など、企業の積極的な挑戦を支援する姿勢が鮮明になっています。
また、すべての補助金制度において、賃上げや従業員の処遇改善に関する要件が設けられており、企業の成長と従業員の待遇改善の両立を図る方針が明確に打ち出されています。各補助金の申請要件や開始時期は、中小企業庁ウェブサイトで随時更新されますので、活用を検討される企業は定期的な確認をお勧めします。
これらの補助金を効果的に活用することで、企業の持続的な成長や競争力強化につなげることができます。特に、複数の補助金制度を組み合わせることで、より効果的な事業展開が可能となる場合もありますので、自社の成長戦略に合わせた最適な支援策の選択を検討することが重要です。