中小企業診断士と関係が深いと言われる商工会・商工会議所。どちらも似たような名称のため、あまり実態を掴めていない新人診断士の方は多いかと思います。
この記事では、商工会と商工会議所の目的や役割、事業内容をわかりやすく紹介し、中小企業診断士としてどう関わって行くのが良いか、を説明していきます。
商工会・商工会議所とは?
商工会と商工会議所。どちらも地域経済支援のために活動する組織ですが、その役割には若干の違いがあります。この項では、その違いをわかりやすく説明します。
商工会
商工会は、商工会法に基づき設置された特別認可法人です。経済産業省中小企業庁が管轄しています。基本的には、主として町・村の区域単位に設置されており、地区内の小規模事業者を中心とした会員組織となっています。全国には1,643の商工会があるといわれています(全国商工会連合会「令和4年度商工会連合会実態調査[令和4年4月1日現在]」より)。
商工会の主な役割は、国や都道府県の小規模企業政策の実施です。特に、小規模事業者の経営や技術の改善・発達を支援する「経営改善普及事業」は、商工会と関わりの深い施策の一つです。
商工会議所
商工会議所は、商工会議所法に基づき設置された特別認可法人です。経済産業省経済産業政策局が管轄しています。基本的には、原則として市や特別区の区域単位に設置されており、地区内の小規模事業者が中心です。商工会に比べると、中堅企業・大企業の会員も一定数います。全国には515の商工会議所があるといわれています(日本商工会議所「日商の概要」より)。
商工会議所の主な役割は、地域の総合経済団体として、中小企業支援のみならず、国際的な活動を含めた幅広い事業の支援です。
商工会と商工会議所の違い
商工会と商工会議所は、どちらも「その地区内における商工業の総合的な改善発達を図り、(中略)社会一般の福祉の増進に資することを目的とする」ことが、それぞれの根拠法に明記されています。つまり、設置目的はほぼ同一と言って良いでしょう。
われわれ中小企業診断士が気にしておきたい違いは、大きく2点です。
1. 担当エリア
先述の通り、商工会は町・村、商工会議所は市・特別区単位での設置が基本です。そのため、事業者の所在地により、支援機関が変わることを覚えておきましょう。
2. 事業内容
大きな事業内容としては、商工会・商工会議所とも違いはありません。が、商工会が中小企業施策、特に小規模事業施策に重点を置いているのに対し、商工会議所は中小企業支援のみならず、国際的な活動を含めた幅広い事業を実施しています。これは、商工会議所が都市部に存在することと、会員として中堅企業や大企業が一定数いることも関係しています。
その他、根拠法や管轄官庁、設立要件など、細かい違いはありますが、どちらも目的や事業内容については共通する部分も多いです。中小企業診断士としては、上記2点を押さえておけば十分でしょう。
出典:全国商工会連合会「商工会と会議所の比較」
https://www.shokokai.or.jp/?page_id=208
商工会・商工会議所が中小企業診断士に依頼する仕事とは?
商工会・商工会議所は、具体的にどのような仕事を中小企業診断士に依頼するのでしょうか。この項では、中小企業診断士が関わりやすい仕事を3つ紹介します。
①経営相談員
小規模事業者を中心に経営全般の相談を受け、適切なアドバイスを行う仕事です。財務や販促、新事業進出といった経営面の相談はもちろん、各種補助金やインボイス制度などのトレンド対応も求められるため、幅広い知見と豊富なノウハウが必要な業務です。
そのため、経営全般の深い知見を有する中小企業診断士にとって、ピッタリの業務と言えるでしょう。
仕事の受け方としては、商工会や商工会議所の正規職員としての雇用形態もあれば、機関によっては3ヶ月間など有期の募集もあります。実際、中小企業診断士資格取得後に、商工会・商工会議所の職員に転職した先輩診断士もいらっしゃいます。
②専門家派遣
商工会・商工会議所から派遣される専門家として、小規模事業者の抱える様々な問題を解決・アドバイスする仕事です。大きく分けて、①専門家窓口対応と②専門家派遣があります。
①は、決まった曜日や時間に定例で商工会や商工会議所に出向き、予約のあった事業者の相談を受けます。事前情報がないことも多く、幅広い業種と相談内容に対応することが求められます。
②はおよそ2時間枠で依頼があり、相談対応を行います。①と違い、事前に業種と相談内容は連絡があり、対応可否を決めることができます。単発の相談もあれば、経営革新計画策定や各種補助金支援において、複数回の面談を行うケースもあります。
①②とも、独立診断士でなくても従事は可能ですが、平日の日中に稼働することが求められるため、企業内診断士ですと少し難しいかもしれません。
派遣制度は機関によって異なりますが、自身の専門分野を登録しておくことで、依頼内容や実績に応じて専門家として選定されるのが、基本的な仕組みです。中小企業診断士は経営全般の幅広い知見を持っていますので、他士業に比べても多様なテーマでの派遣対応が可能です。加えて、自分の専門分野を磨いておくことで、他の専門家との差別化が図られ、依頼も増えていくことでしょう。
③セミナー講師
商工会・商工会議所の会員向けセミナーに登壇する仕事です。商工会・商工会議所は会員の小規模事業者向けに、様々な支援サービスを提供しています。中でも、特定のテーマについて専門家の話を聞くことのできるセミナーは、多くの機関が主催しています。
テーマは創業支援や確定申告といった経営活動にまつわるものから、DXやSNSといった今話題のキーワードを解説するものまで、多種多様です。その分、幅広いテーマでのセミナー開催は商工会・商工会議所にとっても労力が必要となるため、ここでも中小企業診断士が持つ網羅的な知識が役立ってきます。
ただし、面識のない商工会・商工会議所から、個人に直接依頼が来ることはまずありません。自分のセミナー実績や得意分野を商工会・商工会議所に紹介し顔を売るなど、人と人とのコミュニケーションを通じて自分の人となりを知ってもらうことが、案件受注の近道です。
商工会・商工会議所が必要とする中小企業診断士とは?
ここまで商工会・商工会議所が行う事業は、中小企業診断士と相性の良いことを説明してきました。この項では、どのようなスキルを持った中小企業診断士が求められるのかを解説します。
①経営相談実績が豊富
先に紹介した経営相談員は、地区内の小規模事業者からの様々な相談に対応する必要があります。もちろん、相談内容も多種多様。幅広いコンサルティング実績があれば、商工会・商工会議所としては喉から手が出るほど欲しい人材と言えます。
②専門分野を持っている
中小企業診断士は、みな一定の経営知識を持っていると考えるのが一般的です。そこで差別化を図るためには、「これ!」と自信を持って言える専門分野を1つ以上作っておくと良いでしょう。商工会・商工会議所としても、専門知識を持った人材のストックは、会員サービスの観点からも非常に重要視しています。
もちろん、中小企業診断士+税理士、中小企業診断士+社会保険労務士、といったダブルライセンスも有効です。
③依頼を頼みやすく、信頼に足る人物であるか
経験やスキルももちろん大切ですが、そもそも人として信頼の置けない人物に仕事を依頼する機関は一つもありません。商工会・商工会議所の仕事は、基本的に人と人とのつながりで成り立っています。親しい診断士仲間や経営相談員を通じて話が来る事例も多く、自分が信頼に足る人物であるかは常に見られている、と意識した方が良いでしょう。普段から何事にも誠実に取り組み、頼まれた仕事は全力でこなす。このスタンスが仕事の良いサイクルを作っていくはずです。
これらは、商工会・商工会議所の仕事だけに留まらず、中小企業診断士として活動していく上でも同じことが言えます。いくらスキルを磨いても、仕事の依頼がなければ中小企業診断士として活動できているとはとても言えません。これから中小企業診断士として、地域貢献がしたい!と考えている方は、ぜひ参考にしていただければ思います。