「商工会議所」
中小企業診断士とも関係が深い団体ですが、商工会議所がどのような組織なのか、なかなかピンとこない方もいるのではないでしょうか。
今回は、所沢商工会議所・中小企業相談所の鈴木慎哉所長にインタビューを行いました。
鈴木所長は、商工会議所の経営指導員として、そして自らも中小企業診断士として、日々相談に来られる事業者の支援を行っています。
前半は、所沢商工会議所の業務や役割についてお伺いしました。
「経営者を伴走支援する実働部隊」
所沢商工会議所 鈴木慎哉所長インタビュー前編
商工会議所とは、どのような業務をするところでしょうか。地域で事業する方々を盛り上げていく「縁の下の力持ち」のような存在、そのようなイメージでしょうか。
鈴木氏:経営支援の相談所は「国の中小企業施策の実働部隊」です。
概ね行政区ごとに設置されている商工会議所、または商工会が、国から施策の指示と予算をもらい、管内の事業者に無料で「経営指導」、つまり経営の支援をするのがミッションになります。経営指導員という職名ではありますが、私どもとしては、指導という偉そうな目線ではなくて「支援」、「一緒に悩んで考えて伴走しますよ」というようなやり方をしています。
昔は商工会議所の役員や議員がステータスという時代もありましたが、今はだんだん薄れてきています。
平成25年に中小企業基本法の一部改正があり、平成26年に小規模基本法が制定され、その時に小規模事業者持続化補助金(以下、持続化補助金)が制度として創設されましたが、そのときから、経営指導員の働き方が本当に大きく変わりました。
商工会議所、商工会の仕事は、小規模事業者や中小企業の支援が使命とはっきり法律で定められていますので、働き方も、組織体制も大きく変わりました。
所沢商工会議所は、現在会員数が3,400事業者ということですが、この数は商工会議所の中でも多いほうですか。
鈴木氏:近隣の商工会議所の会員数だけで比較すると、中堅くらいです。
所沢市内には小規模事業者だけで6,175社、大手も含めると8,655社あります(平成28年)。
ですので、組織率だと3割くらいです。
率で言うとあまりいい方ではないということになりますが、所沢はベッドタウンのイメージが強く、会員として加入されるケースが少ない大手のチェーン店も進出しているので、どうしても組織率が下がってしまいますが、全国的にみると決して悪いほうではないです。
職員は何名いらっしゃいますか。
鈴木氏:事務局は、支援以外の部署、一般職員も入れると25人です。
経営支援業務を担う中小企業相談所という部署は10人でやっています。
その内、経営支援の仕事を専任で務めるメンバーが7人になります。
経営指導員1名あたりおよそ1,100社を担当する計算になります。
コロナの時は本当に大変でした。
今まで20年勤務してきた中で、コロナの時期ほど未曾有の危機ということはなかったです。2009年のリーマンショックのときも、2011年の東日本大震災のときも、融資もそれこそ大変で、稟議書もたくさん書きましたが、コロナほどではなかったです。
でも反対に、会員の方にも商工会議所について知っていただけました。
「なんだか名誉の会みたいな、そういう会としか考えてなかった」
「入会して十何年利用してなかったけど、初めて商工会議所がこんなことやっているって知った」
私たちとしては会員も増えましたし、支援の現場は大変でしたが、感謝されることが多く嬉しかったです。
今後、会員を増やしていくために継続して取り組まれていることはありますか。
鈴木氏:金融機関からの紹介や会員獲得の運動などありますが、「まずは悩み事や困りごとを解決して、それで初めて商工会議所に入会してもらう案内ができるんだよ」というのが、現在のチーム方針です。
どの商売でもそうですが、ニーズのないところにビジネスチャンスはない。
ニーズを創出することは、世界に名だたる企業でも失敗することがある。
悩みごとや困りごとの解決ニーズ、このニーズを解決してこそ、初めて役に立ったなと思う。
そのタイミングで、「どうですか、会員になっていただけませんか。私たちの原動力となりますので」というお願いをする。
無理に勧誘して入会していただいても、ほぼ続かないです。
入会した方の継続状況はどのくらいですか。
鈴木氏:コロナで支援金や給付金の事業者の認定をして欲しいと言って入会した方は、給付金をもらったとたん辞めてしまいました。
持続化補助金や経営革新とか、ものづくり補助金とか融資もそうですが、そういう利用シーンの方は、長く続けていただけます。
よほどのことが無い限り、そういう方は継続してくれる。
コロナで営業ができないときに融資で助けてくれたとか、持続化補助金の申請を手伝ってくれたとか、そういう方は今も会員継続してくれていますね。
他の地域と比べて、所沢商工会議所の特徴や強みはどのようなことでしょう。
鈴木氏:商工会、商工会議所には地域により特色に違いがあります。
所沢商工会議所の管内は人口34万人のベッドタウンなので、小売業やサービス業が多いです。その中でも、生活関連サービス業、美容室や病院、大手チェーンが多いのが特徴です。あと、金融機関が非常に多いです。管内には、メガバンクも含め32の支店があります。
最近、金融機関が本業支援に力を入れてきています。
いわゆる金融支援だけじゃなくて、経営革新計画や融資以外の販路開拓など、私たち商工団体と同じような支援を手掛けてきています。
地域に展開する信用金庫では、会社の方針として中小企業診断士の資格を職員に取得させ、本部に複数名、各支店にも店舗に1名の割合で置こうとしています。
しかし、金融機関は競争相手でありませんので、連携を密にしながら管内の事業者の支援に当たらなければなりませんが、提供する支援内容については似通っています。
所沢市に限らず、さいたま市や川口市、事業者や人口の多いところはどうしても銀行が多いので、商工会議所、商工会は事業者の相談窓口が金融機関に取って代わられないよう、経営支援業務の質を高める必要があります。
その点、弊所では専門知識を持つ経営指導員が多いため、他の商工会議所と比較した強みになっています。
所沢周辺の中小企業の現状と課題はどのようなことでしょうか。
鈴木氏:これも所沢管内の特徴になりますが、ベッドタウンなので大手チェーンとか大手のお店との競合、競争がものすごく激しいです。
クリーニング店ひとつとっても、個人で経営しているクリーニング店も頑張っていますけれども、人口が増えてタワーマンションが建つと、マンションごとにクリーニング店がテナントで入っているんじゃないかといった状況です。
美容院は大手よりむしろ個人経営の方が強いですが、飲食店、クリーニング店、小売店全般は大手資本との競争に晒され、厳しい経営を強いられています。
そして、大手チェーンが進出してきて駅前が栄えると、次の問題はテナント家賃の高騰です。
そうなると、中小、小規模はなおさら出店できない。創業を所沢で開業したい、生まれ育った街で開業したいけれど、とにかくテナント家賃が高くて借りられないなどの弊害が生じ、どうしても大手との競争になってしまう。いわゆる「大手資本」との競争の激化、これに尽きますね。
この現状に対して、商工会議所としてどのような支援ができますか。
鈴木氏:駅前のテナント家賃はとても高いですが、駅前の一等地に店を出さなければ絶対に儲からないから成功しない、ということではない。
戦国時代じゃないですけど、兵力が少なければ少ないなりの戦い方をしなければいけないということを、私たち自身が認識しています。
ですから、私たちがその開業に関して、創業計画を見て、ダメ出しもしながら、スタートアップから躓かないよう、しっかりと伴走支援していく。
弊所では、創業に関連するセミナーを年3回開催しており、近隣市町村と比べるとはるかに多いです。春と秋に「開業ゼミナール」を、そして夏の終わりに女性専用の「開業café」という創業塾を開催しています。
東京に近い都市圏で、競争の激しいところで創業するには、スタートアップから丁寧に支援する、ということです。
あと、お店を出して商品を並べれば勝手に売れるではなくて、どうやって売るのか。まずはターゲットを明確にして、よりターゲットに近づけるようにアドバイスします。
数打ちゃ当たるではなくて、ストーリーを絞って限定して語ったほうがいいですよというところも、丁寧にお伝えしています。
人口が多い地元で創業したいというニーズはかなり高いです。
創業者が創出される機会には恵まれていますが、競争も増えるということですので、創業支援は特に注力をしています。
反対に、所沢商工会議所の課題や今後に向けての取り組みは何でしょう。
鈴木氏:経営指導員、若手とベテランとのスキル差が激しいという点です。
今はこれを解消しようと思って努力しているところです。
職員の経験年数に大きな差があります。
私と私の次席は経験年数が長いですが、それ以外になると2年から3年くらいで、みんなまだ経験年数が浅いです。
コロナ禍で支援金などの手続きサポート的な支援が多く、じっくり膝を突き合せて、何回も相談を受けて補助金の事業計画書をブラッシュアップしていくような支援を経験してきていない。そのようなこともあり、そのスキル差を埋めることが今の課題です。
具体的には、その差を埋めるためにどのようなことに取り組まれていますか。
鈴木氏:中小企業診断士のベテラン先生の個別相談会に同席をさせて、話している内容や考え方の切り口、課題解決アプローチなどを見て、聞いて、自分の知見や知識にしていく取り組みを行っています。
口で説明してもなかなかイメージできないと思うので、「同席して盗め」と。
数多く触れて、言い回しや「そうか、こういうふうに考えるんだ」ということを学べば、経験として身についてくると思うんですよね。
そこを今、徹底的にやっています。
もちろん、私と次席が相談に入るときにも、同席させて横で聞いてもらっています。
商工会議所の経営支援メニューの中で、利用者が多いのはどのような内容でしょうか。
鈴木氏:ニーズ自体は、持続化補助金の申請支援が一番多いですね。
次いで、ものづくり補助金の申請支援、それからデジタル化・省エネ関係の設備投資の補助金とか融資の支援、あとはビジネスマッチング、展示会出店とか販路開拓、これが多いです。
事業再構築補助金は、申請者の事業規模を超えた多額の資金調達を必要とする性質があるため、市内に数多くある金融機関が事業再構築を手がけて融資するというパターンが多いです。
そのパターンからこぼれる、ものづくり補助金や持続化補助金、これは私たちでしっかりとお手伝いしなければならないと思っています。
通常業務の中で、他の商工会議所との交流や情報交換という機会はありますか。
鈴木氏:通常業務というより、何かの会議など、そういうところでの交流はあります。
例えば、経済産業省で私が講演をさせてもらった時、参加者が関東近県のいろんなところから来ていて、「今日参考になりました」とか「うちはこういう悩みがあって」といったやりとりがあったり、そういうことはありますね。
また、非公式ですが気心知れた他の商工会議所、商工会の職員同士が集まる自主的な勉強会や酒席なども、貴重な情報交換の機会となっています。
職員の異動はないですよね。みなさんその商工会議所に所属しているんですよね。
鈴木氏:そうですね。県を跨いだ転勤というのもないです。
前にも述べましたが商工会議所、商工会には地域性があります。例えば、私たちのように「観光振興は少ない」というところもあれば、観光振興が主軸となっている地域もあります。
そうなると、商工会議所の果たす役割も観光振興の役割が大きくなるんですよね。
経営支援に注力する組織運営の商工会議所もあれば、観光振興中心で、その町の特色を生かした組織運営になっていたりと、さまざまです。
地方に行けば行くほど観光に力を入れているところが多いです。
その②に続く。