中小企業診断士のうち、6~7割がいわゆる「企業内診断士」だと言われています。今回は「企業内診断士」にとっての「研究会」の活かし方を考えてみます。
テーマは、「企業内診断士」の「研究会」活動のメリット3選と、「研究会」活動で得られる効果は
- メリット①:自分の強みを更に高められる
- メリット②:自分の弱みを克服できる
- メリット③:人脈が広がり新たな気付きを得られる
研究会とは
研究会とは、中小企業診断士の能力向上・ネットワークづくりのために活動する団体です。例えば、東京協会では本部・支部合わせて170の研究会が存在します。
経済環境が激しく変動する現代において、企業が抱える経営課題は多岐に亘っていて、中小企業診断士には、その対応力や高度な専門性が求められます。
研究会に参加することで、自分の専門性を高めることができたり、苦手な分野を克服したり、さらには自分にとっては新しい領域への挑戦といった、能力向上や知見を獲得できます。また、参加メンバーとの交流が診断士の人脈形成に繋がるネットワークづくりの場としてとても有益な機会となります。
具体的にはどういうものがあるのか。大まかに分類すると以下の通りになります。
- 業種別研究会(製造、建設、流通、サービス、商店街、農業、食品、医療など)
- IT・AI・DX
- 事業再生・事業承継
- 組織・人材開発
- マーケティング
- 海外、国際・グローバル
- コンサルティング手法(マインド系、プロコン塾、マスターコースなど)
- 地域支援、その他
いわゆるプロコン塾やマスターコースもここでは研究会に含めています。プロコン塾とは、プロのコンサルタントを養成する塾の意味で、診断士のなかではわりと一般的な用語です。
診断士として独立や副業で稼ぐことを考えたとき、自身の“知識+経験+スキル”を活かしたうえで、“営業力”と“人間力”を身に着け、仕事を取ってこなければいけません。プロコン塾やマスターコースは、その実践力を鍛える養成プログラムと考えられます。
ちなみに、私は“プロコン”という言葉を知りませんでした。試験勉強していた当時は、二次試験に合格することにフォーカスしていて、また合格できる確信もなかったので、合格後のことに関しては情報収集を全く行っていませんでした。
なので、合格後に何をどうすればよいのか全く分からない状態に陥っていました。いわゆる“情報弱者”です。情報は自ら動かないと入ってこないし、活動も自ら動かないと何も始まりません。その意味では中小企業診断士は能動的に活動する方が多いと感じています。
情報収集する手段としては、東京協会のオープンキャンパス的なイベントとして、春に「スプリングフォーラム」、秋に「オータムフォーラム」が開催されます。協会のHPや協会発行のガイドブックは有益な情報源になります。また、東京協会の場合、各支部でも独自のフォーラムを開催しています。他の道府県でも同じようなイベントがあると聞いています。
ご自身の住まいや勤務地に近いところの情報を収集してみるとよいでしょう。
研究会活動のメリット
自分の強みを更に高められる
中小企業診断士として活動する未来を想像した時、最初はご自身のこれまでの知識や経験を活かした活動を思い浮かべると思います。
例えば、法人営業力や組織・人事、デジタルマーケティングなどです。ただこれらは、一次試験の知識がそのまま二次試験に活かせないのと同様に、これまでの知識・経験を診断士活動に活かすためにブラッシュアップする必要があると考えます。
研究会活動は診断士としての研鑽の場なので、ご自身の知識・経験を診断士活動にどう活かせばよいのかを整理するきっかけになります。自分では当たり前だと思っていたことが、診断士としてとても有意義なスキルであることに気付くことも多いものです。
自分の弱みを克服できる
診断士として活動をする上では、幅広い業種、企業成長の段階に応じた対応が求められます。自分の得意分野だけに絞った活動はできないと思いますし、自分の成長も止まってしまうと思います。
診断士1年生は、研究会に気軽に参加できる“特典”があります。基本的にはどの研究会も新人には門戸が開かれていて、Welcomeな雰囲気があるので、自分の知らない世界の分野にも気軽に“見学”してみるとよいでしょう。
人脈が広がり新たな気付きを得られる
多くの診断士は、仕事をしながら勉強をして試験に合格していて、普通に仕事が忙しい方も多いと感じます。様々な分野のプロフェッショナルの方に数多く出会える機会は大変貴重で、その集まりの中での会話はとても刺激的で知的好奇心を高められます。
これまで出会えなかったいろんな方々に会うことができ、中にはとても気が合う人もいて、自身の成長を高める動機付けになります。
企業内診断士として、研究会活動で得られる効果
診断士試験に合格している段階で、経営全般に関する知識は習得できており、会社の中での視座が上がってくるものです。
この点は、勉強中の段階でも既に感じていると思います。研究会活動でより具体的な事例や深い知見を得ることで、上がった視座から、よりクリアな映像として業務を認識できるようになります。
通常業務を行っていても、課題や問題をより精緻に分解できるようになり、業務遂行能力が上がります。
また、会社が新しい取り組みをするときに、研究会活動で得られる知見が活かせる分野であれば、ASIS-TOBEで捉えて先回りして考えることができます。会社は成長のために常に新しい取り組みを行うので、新規事業を行う場合の貴重な人材として期待され、評価が高まります。
将来、経営コンサルタントとして独立したいと考えている人にとっては、特に自身の不得意分野の最新の情報を得られる場として、とても有意義です。最新のトレンドや生の情報を得られることで、将来の独立への計画をより具体化することができ、効率的に進められるでしょう。
そして研究会によっては密な人間関係を構築できるので、より有効な人脈形成にも繋がります。
なにより、自己啓発意欲の高い人に多く出会えるので、自身のモチベーションアップになる点は最大の効果と言えるでしょう。
私の経験
私は2024年1月に二次試験に合格しました。職歴は、リース会社で法人営業を20年、審査業務を5年経験しています。
これまでのキャリアで、BtoBの営業や、与信業務・企業審査、財務分析にはそれなりの経験値がありますが、BtoCへの対応力やマーケティング、業務効率化に必要なITスキルが足りないと感じていました。
診断士試験合格後、TACの祝賀会や実務従事、東京協会のスプリングフォーラムに参加して情報収集し、3つの研究会に参加しています。1つ目が事業承継系、2つ目がAI・DX系、3つ目がマインド系です。今は得意分野を伸ばすよりも、不得手な分野を克服しようと考えているところです。
特に、ITスキルが圧倒的に足りない私には、AI・DXは敷居がとても高いと感じていましたが、本業の仕事で今期DX推進チームに組み込まれ、AIツールを活用した業務改善施策の検討を進めていたので、本業にも役立つと思い参加してみました。
入ってみると、ChatGPTはこれまでは技術競争であったが、これからはプロンプト(入力の仕方)が重要で文系が優位になるなどの話しがあり、とても興味深く勉強になっています。興味深い同期にも出会え、楽しく参加しています。
マインド系については、中小企業診断士は、他の士業とは異なり、法務・税務・労務などの専門領域が限定されていません。逆に言うと、幅広い対応力と将来を予見する力が求められ、企業のあるべき姿に向かって伴走支援することが求められます。
その為、顧客からの高い信頼性と人間力が求められます。そこにフォーカスした研究会で先輩方の話しをたくさん聞ける機会があります。
ゆくゆくは、プロコン塾、マスターコースにも挑戦してみようと思っています。
デメリット・注意点
まずは、時間と費用の面です。様々な分野への興味関心は自然と高まりますが、何でもかんでも安易に入ってしまうと、時間と費用が掛かります。
定例会の開催日時などを確認し、本業の仕事や家族サービスとの兼ね合いをケアする必要があるでしょう。
サークル活動的な印象が強い研究会もあります。すでに人間関係が形成され、よく知ったメンバーで情報交換する場として活用されている方もいらっしゃるようです。
研究会で得た知識をアウトプットする機会に直接的には結び付かないケースもあるでしょう。
将来への備えや、得た知識・知見を本業で活かせればよいですが、診断士1年目は目まぐるしい日々が続きますので、ある程度効率的な活動が必要だと思います。
研究会に参加している人のレベルもまちまちで、研究会の趣旨や関わっている方の人柄もありますので、自分に合うかどうかはよく見極める必要があります。あまり決め打ちはせず、初回は「見学」させてもらう形で入るとよいでしょう。
最後に
「研究会」活動は、自身の成長にモチベーション高く取り組めるいい機会であり、刺激的でいい人脈形成を実現できます。
特に、企業内診断士にとっては、自社の共通言語、企業文化が通じない世界で、自分を客観視できる有意義な時間・活動となります。研究会活動を通じて得られる知識・知見は、本業の仕事への対応力の向上にも繋がり、将来を見据えたときの、自分の強み・弱みを整理するいい機会にもなります。
但し、自分に合う、合わないは当然あるので、自分に合うかどうかは見極める必要があるでしょう。