「中小企業診断士の試験に合格したものの、何をすればいいのかわからない…」
試験に合格することを目標に頑張ってきた人の中には、このような悩みを抱えている方も多いかもしれません。
今回は、中小企業診断士1年目には何をすればいいのか、先輩診断士への独自のアンケート結果も踏まえながらご説明します。
※アンケートについて
2023年6月に中小企業診断士を対象に、シューツリーコンサルティングにて実施しました。
1年目診断士活動の実態(アンケート結果)
本題に入る前に、まずは先輩診断士が1年目にどのような活動をしてきたのか、アンケートの結果を見てみます。
1年目にいくつ勉強会や研究会に所属しましたか
診断士活動では、各種勉強会や研究会があり、お互いに知見を高めるため、多くの診断士がさまざまな会に参加しています。
アンケート結果を見ると、4つ以上の会に参加しているという回答が最も多かったです。
診断士活動はネットワークやインプットが重要ですので、初年度から自分が興味のある会に積極的に参加している実態がうかがえます。
診断士1年目の活動内容
勉強会や研究会の他には、具体的にはどのような活動をしてきたのでしょうか。
セミナー講師、各種補助金申請、経営診断、受験生支援、執筆活動、の順番でした。診断士の仕事はよく「診る・書く・話す」と言われますが、それを反映した結果と言えます。
また初年度の特徴として自身の受験ノウハウを活用して、診断士受験生を支援する活動に参加している方も比較的多いです。
診断協会への入会状況
続いて、各都道府県の診断協会への加入状況です。
9割の方が、診断協会へ入会している(入会していた)ことがわかります。
まずは診断協会に所属し、協会内での組織の活動や研究会活動、プロコン塾などに参加することで、診断士として最初の活動を始めたという方も多いのではないでしょうか。
診断士活動1年目の収入
そして、1年目の収入についても聞いてみました。
「収入なし」「10万円以下」という回答が多かったですが、一方で1年目から100万円以上稼いだ方もいるようです。補助金申請支援業務を取り組んだ方は、成功報酬次第で1年目から高額な報酬を得ることができます。
それでは、次に1年目の仕事に対して解説します。
中小企業診断士1年目の仕事
アンケートのところでも触れましたが、中小企業診断士の仕事は、よく「診る、書く、話す」と言われます。ここでは、診ると、書く、話すについて具体的にご説明します。
- 診る:企業診断、コンサルティング、補助金申請支援など
- 書く:各種執筆活動
- 話す:セミナー・研修講師
診る
①実務補習、実務従事
中小企業診断士は、登録5年ごとに更新をする必要があり、更新するためには一定の実務ポイントを獲得する必要があります。実務ポイントを獲得するための診断行為を「実務従事」と言います。
ところで、中小企業診断士の試験に合格しても、すぐに中小企業診断士として登録し免許を得られる訳ではありません。登録のためには、更新と同様に一定の実務経験を経て要件を満たす必要があり、更新と同様に実務従事を経験する必要があります。また、最初の登録要件を満たすために診断協会が行うのが「実務補習」です。
実際に診断先の企業に伺い、社長にヒアリングを行い、いただいた資料等を分析しながら、最後に報告書を作成し、説明を行います。業種にもよりますが、営業、生産、財務、IT技術など、企業の課題を分析した上で報告をする、いわゆる総合診断を経験することができます。
一方、登録前の方向けの実務従事サービスについては、受講生が参加しやすいようにすべて土日に設定されていたり、オンラインのみで完結するものなど、形態はさまざまですので、申し込みの際には、事前の比較検討が必要です。
なお、シューツリーコンサルティングでも、登録前の方向けに実務従事を行っています。
②企業診断、企業支援
コンサルタントとしての本丸と言える業務です。
1年目から企業と接点を持つのも簡単ではありませんが、実務補習や実務従事後の継続支援の依頼を得たり、先輩診断士と一緒に訪問したり、また、補助金申請支援で接点を得て、そのまま支援するといったパターンもあります。
診断士業務を続けていく上では、経験と実績が重要になってきます。診断協会内の研究会や勉強会等でも企業診断を経験できる場合もありますので、早いうちから多様な業界の企業診断を経験しておくとよいのではないでしょうか。
③各種補助金申請支援業務
日本の全企業のうち99.7%は中小企業です。中小企業の活性化を支援すべく、国や自治体から、様々な補助金が用意されています。申請には所定の手続きが必要であり、会社の現状や今後の経営計画などを、所定の様式に記載し提出する必要があります。
補助金申請業務は、新型コロナウイルスの影響等もあり、支援件数そのものが多くなっており、1年目の診断士も比較的多くの方が取り組んでいます。アンケートによると、補助金申請支援業務関連ではセミナー講師についで多く、経営革新計画支援も含めると半数以上の方が携わっているという結果でした。機会があれば、積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。
書く
①各種刊行物への寄稿
執筆活動も、中小企業診断士の重要な仕事のひとつです。執筆媒体として代表的なものは、中小企業診断協会が発行する「企業診断ニュース」があります。各都道府県に所属する診断士向けの会報ですが、記事についても多くの診断士が執筆に携わっています。また、これ以外にも、民間調査会社のレポート、診断士試験受験生向けのテキストなど、執筆の機会は多くあります。
○Web媒体への執筆
最近では、刊行物以外にもWeb媒体での寄稿も増えています。調査のためにインターネットで検索した際に、執筆者が診断士ということもよくあります。代表例としては、中小機構が運営する「J-Net21」があります。ここに掲載されている記事は、診断士が実際に企業に訪問してインタビュー記事を執筆したり、これまでの仕事の経験を活かし、自分の専門分野や得意分野で記事を書いたりしています。
また、民間のWeb媒体でも、記事の執筆に関しては、各媒体で執筆者の募集を行っているところがありますので、確認してみてください。
最近ではSNS等を活用して、自ら情報発信をする診断士の方も多数います。ホームページやブログを立ち上げ、受験生向けの記事をブログで発信していたところ、大手の受験予備校から演習問題の作成の仕事につながった、という話も聞きます。自ら情報を発信するハードルも低くなっていますので、検討してみてはいかがでしょうか。
話す
○セミナー講師
会社の研修に参加した際、中小企業診断士の資格をお持ちの方が講師だった経験はないでしょうか。企業での新入社員研修や中堅社員向けの階層別研修、マネジメントや人材育成、財務・会計など、ご自身の得意分野を活かして講師として活躍されている診断士の方は多数います。
診断士1年目では、診断士としての経験や信用という観点から、仕事を得るのは簡単ではありません。しかし、これまでの仕事で得た経験を活かせば、セミナー講師として登壇することは可能ですし、自ら動きやすい活動とも言えます。アンケート結果を見ても、セミナー講師を経験された方は半数以上にのぼりました。
講師の仕事は、事前のコンテンツ作成とテキスト等の準備、開催場所の確保、募集告知など、セミナー当日に受講生向けに話をする以外にも、準備段階での作業が多く発生します。開催にあたっては、セミナー開催のポータルサイトがあります。最近では、趣味の分野でも自ら講師となりセミナーを行う方も多数存在し、ポータルサイトを見ると、多数の情報が掲載されています。そのような中で、いかに告知すれば集客につながるかを考えるのも、診断士としての知見が問われるところかもしれません。
なお、セミナー開催のノウハウを知りたい方向けに、シューツリーコンサルティングでは、実際にセミナーを開催することで、企画から開催まで一連の流れを経験できるコースを用意しています。
仕事を得るための具体的アクション
次に診断士1年目から精力的に仕事を獲得できるためのポイントを解説します。
ネットワークの重要性
診断士活動をする上では、「ネットワークづくり」が大事と、よく言われます。診断士活動をする上で、診断士数人でチームを組んでプロジェクト案件に参画するといった例もありますが、診断士活動の中で、自分に知見の少ない分野に強い診断士に相談したり、依頼をしたりするのに必要になるからです。
①診断協会に加入する
中小企業診断士になったら、多くの方が各都道府県の診断協会に入会します。診断協会は、各会員に向け、商工会議所の相談窓口案件などの仕事の依頼や斡旋をします。また、協会主催の研修会の他、各研究会活動において知識の向上を図ることができます。なお、診断協会への入会は任意ですが、アンケートによると、診断協会への入会者は80%と、大多数の方は入会しているということがわかりました。
診断協会入会のメリットは、これらの情報や知見を得られることの他、会員相互のネットワークづくりができるということです。各都道府県の協会の規模感にもよりますが、新規会員同士の横のつながり、研究会活動や協会事務局に所属することによる先輩診断士との縦のつながりを持つことができます。
②診断協会以外の勉強会、コミュニティに参加する
診断協会以外にも、診断士向けの各種コミュニティが存在します。知見を得られるのであれば、これらの会合に参加するのも有効ですし、所属診断協会の枠を超えたネットワークをつくることもできます。診断協会の公認を得ている集まりもあれば、飲み会中心の集まりなど、形態はさまざまです。会費が発生するものもありますので、どういった団体なのか、事前に確認しましょう。
なお、アンケートによると、1年目は診断協会以外に所属した勉強会や団体の数は、4つという方が最も多い結果となりました。最初ということもあり、まずは興味のあるところに積極的に参加したことがうかがえます。
③診断士向けの講習会、セミナーに参加する
診断士を対象とする講習会なども多く用意されています。代表的なところでは、各都道府県で行われている「プロコン塾」です。1年を通じて行われるものもあれば、特定のテーマについて学ぶものなど、様々なテーマが用意されており、プロのコンサルタントとして必要な知識を学ぶことができます。
また、民間会社が実施する講習会等もあり、企業診断や執筆の活動の機会を得られるものもありますので、チェックしてみてください。受講料が発生するものが多いですが、人気の講座は申し込み開始後すぐに定員に達して締切になる場合もありますので、予め周囲の方から内容について聞いてみたり、またスケジュールの事前調整などをしておくとよいでしょう。
④受験生支援団体に参加する
診断士のコミュニティの中でも1年目しか活動できない団体として、診断士受験生支援団体があります。有名なところは「タキプロ」「中小企業診断士一発合格道場」「ふぞろい」の3団体です。具体的な活動は、合格1年目の診断士が、診断士受験生向けにセミナーを開催したり、過去問の解答を添削指導したり、お役立ち情報を毎日ブログで提供する、等々です。
ここでの活動は、全員が診断士1年目です。参加状況は各団体、各人によってさまざまですが、関与度合いを強めれば強めるほど、メンバーとのつながりは濃くなりますし、1年間の活動終了後に、この活動がきっかけとなり仕事につながっることもあります。コロナ禍で交流もオンラインが多いですが、そのおかげで全国に診断士仲間を作ることができるのも大きなメリットです。
なお、受験生支援団体への入会は、受験生時代に各団体の勉強会やセミナーに参加したことがあるなど、各団体ごとに要件は異なります。また、入会のタイミングは合格発表後のある一定期間に限られることが多いです。今後診断士を目指す方は、受験生支援団体のページも参考に勉強をしつつ、合格後には受験生支援団体への入会をおすすめします。
「ありたい姿」へ向けた計画をたてる
「あなたは、将来診断士としてどのような活動をしたいですか」
「診断士として目指すべき姿はどのようなものですか」
診断士1年目の今こそ、今後どのような診断士になりたいかを考え、それに向けての計画をたて、その計画に沿って活動をしていくことが有効です。例えば、3年度に診断士として「独立開業したい」とすれば、独立に向けて、どのタイミングでどのような行動をとればいいか、具体的な目標やスケジュールを立ててみることです。
計画をたてる際には、先輩診断士に助言を求めたり、診断士同期と情報交換しながらといった作業を経ながらでも構いません。自分自身の「強み」「弱み」を踏まえつつ、じっくりと考えてみる時間を作ることをおすすめします。
まとめ
診断士1年目、「何をすればいいかわからない」という方もいれば、1年目から診断士として大活躍される方もいます。ここの差はどこで生まれるのでしょうか。
試験に合格する前から「診断士としてこういったことに取り組みたい」という思いがある方は、そこへ向けてすでに歩み始めていることでしょう。そうではない方でも、「積極的に会合に参加する」「声をかけられたら必ず手を挙げる」といった方は、2年目以降も活躍されているように感じます。
資格を取得しただけでは何も変わりませんし、ただ待っていても仕事はやってきません。せっかく得た資格、どう活かすかは診断士になったあなたの動き次第です。そして、その動きも周りの診断士に見られています。1年目から多くの方と交流し接点を持っている方には、先輩診断士から声がかかる可能性も高くなります。無理は禁物ですが、各方面に積極的に顔を出し、経験のない分野にもチャレンジしていきましょう。