「商工会議所」
中小企業診断士とも関係が深い団体ですが、商工会議所がどのような組織なのか、なかなかピンとこない方もいるのではないでしょうか。
今回は、所沢商工会議所・中小企業相談所の鈴木慎哉所長にインタビューを行い、前後編に分けて紹介します。前編はこちら。
鈴木所長は、商工会議所の経営指導員として、そして自らも中小企業診断士として、日々相談に来られる事業者の支援を行っています。
後半は、商工会議所における中小企業診断士の役割などについてお伺いしました。
「経営者に寄り添える人になって欲しい」
所沢商工会議所 鈴木慎哉所長インタビュー後編
商工会議所における中小企業診断士の役割についておうかがいします。相談窓口について、弁護士、社労士、税理士、弁理士、いろいろな士業の方がいる中で、中小企業診断士はどのような立ち位置でしょうか。
鈴木氏:国からやりなさいと言われている支援はゼネラリストとして私たち経営指導員がやって、私たちの支援の範疇を超えると思われる案件については、経営指導員に近い経営の素養を積んでいる診断士にお願いをしています。
特にお願いする業務で言うと、経営革新計画の策定だとか、事業承継、M&Aですね。
もうひとつが事業計画書策定です。
補助金申請の際の事業計画書策定などは、最近では行政書士も手掛けるようになりましたが、行政書士が作成した事業計画を見ると、数値計画が得意ではないと感じます。
診断士の方は、数値計画や算出根拠が抜けていると事業計画書としておかしいと感じる。
私たちは、その「おかしい」という感覚を専門家に求めています。
ですので、ビジネスプランに関連するものについては診断士にお願いしています。
鈴木所長は数字に厳しいとお伺いしています。
鈴木氏:厳しいというより、根拠があれば、100億円の売り上げがあがりますと書いてもいいと言っています。
その100億円の売り上げがあがる根拠を示せと言っている。
それに納得ができれば、100億円だろうが1兆円だろうが構わないと、いつも言っています。だから、厳しいという言い方は、やや意味合いが違います。
「読んだ人が納得する事業計画を立てなさい」といつも言っています。
計画書の出来、不出来の判断はページの量ではなく、内容です。
もうひとつ、「算出根拠を積み上げた結果いくらになるのか」という考え方でやりなさいと言っています。
例えば「1,000万円の売上計画のエビデンスを書こう」ではなくて、「この取り組みを行えば、これだけのお客さんが獲得できる計画なんでしょ?その結果、いくら売り上げがあがるの?」という考え方です。
1日2万円の売り上げが精一杯という人に、5万円売らないと1,000万円達成できないから話の辻褄が合う計画にしましょうと言っても、達成は無理でしょう。
そういう話しをよくしています。そこはしっかりと見ています。
専門家派遣や経営相談員の募集について、商工会議所からも直接募集はありますか。
鈴木氏:公募制、いまは採っていないです。
基本的に診断士の先生方にお支払いさせていただく報酬は、国や埼玉県のいわゆる補助金予算、税金です。
補助金から支払いをさせていただくので、埼玉県や公的支援機関で専門家登録をしている実績のある方。登録のある方に直接依頼するか、もしくは診断協会を通じて間接的に紹介して下さいと依頼をするか、そのどちらかです。
国や埼玉県などの補助金の支出元は、補助金を活用して行なった事業の報告を求めます。
使途はもちろんのこと、診断士を活用して実施した支援の内容や、売上や収益の増加などの効果まで検証し報告します。
ですので、支援実績を豊富にお持ちの方でないと、補助金活用による効果が薄いと判断されることにもなりかねません。
一方で、インターンシップではないですけれども、診断士として独立されたばかりの方にも、「勉強させて下さい」「相談の現場、経験させて下さい」と来られる方もいます。
そのような方に対しては、公的機関としては仕事を依頼しにくいから、診断協会にとりあえず入った方がいいよとアドバイスしてあげたりします。
診断協会経由で、○○公社とか、○○財団などの相談員からだんだんキャリアをつけていったという人もいますね。
あとは診断士のベテランの先生を紹介するパターン。
私は最近、紹介するようにしています。
ベテランの先生に師事して、厳しいけどカバン持ちをさせてもらえれば、セミナー講師の受注や支援企業の紹介につながる可能性があります。
すごいですね。診断士のマッチングですね。
鈴木氏:プロコンとしてやっていくのであれば、公的機関よりも早いかもしれないです。
でもこれは「尖った強み」をお持ちの方です。
支援の現場経験が乏しい方には難しいかもしれません。
いろいろなところで、「声を掛けてもらったら断らずに何でもとにかくやって実績を積みなさい」とよく言われますが、そういうことも大事になりますか。
鈴木氏:民間の需要と、私たちのような支援機関のニーズとでは、診断士に求めるものがおそらく違うと思います。
相手が中小、小規模の事業者さんでBtoCだった場合には、豊富な支援実績がありますと言えば、「じゃあウチも頼んでみよう」となるかもしれないですが、私たちはそうではありません。
私たちは「尖って」いる方がありがたいです。
「なんでもできます」が一番困る。依頼しにくいです。
例えばITストラテジスト、ITコーディネーターといった資格があって、「IT畑一筋でやってきたIT診断士です」といった人の方が、仕事の依頼はしやすい。
「この人に頼めば、デジタル化関係大丈夫だよ」という依頼の出し方を私たちはするので。これは非常にありがたいです。
そういう強みがないと、やっぱり依頼しにくいです。
「製造業、何でもOKですよ。大好きですから」という方が、私たちとしてはやりやすい。逆に、製造業専門の先生がエステサロンの支援となると、「やれと言われればやりますが」みたいな感じになるので。
だから、突出した強みがある方がありがたいですね。
「私、(これこれこういうこと)が得意です」と言える人。
反対に「販路開拓」と一言目に書いてあると、「これはダメだなぁ」ってなります。
「広告宣伝」「営業の強化に強みがある」というのも依頼先としては難しいです。
私たちは「必殺仕事人」としてお願いをしたいです。
私たち自体は、なんでもそれなりに「広く、浅く」が求められていますが、私たちが対応できないところは、ゼネラリストじゃなくてスペシャリストに頼りたい。
ニッチなスキルでもいいと思います。
資質としては、人と人との信頼関係を築ける人でしょうか。
鈴木氏:そうですね。診断士も、世の中に掃いて捨てるほどいるわけじゃないですか。
その中で「この人」って選ばれるためにはどうしなきゃいけないのか。
「じゃあ別にいいよ、あなたなんか」と、変わりはいくらでもいる世界になってきているので、その中で選んでもらえる人材、この点を絶対忘れちゃダメだなと、商工会議所、支援機関の職員というより、ひとりの診断士としてそう思っています。
「『自分に』って相談してきてくれる人はみんなありがたい人だ」といつも思っています。
「経営者の苦労や悩みに寄り添ってくれる人」といいましょうか。
私の父も中小企業の経営者で、本当に大変な姿を見てきました。
経営者としての表の顔だけではわからない実生活をしている部分を私は見て知っているので、表からでは見えない裏では苦労を重ねている、そんな経営者の気持ちに寄り添えればと。
でも、事業を広げたいっていう夢や希望もあるわけです。
では、そのためにどうしなければいけないのか、一緒に実現できるように伴走して、一緒に走りながら考えてあげる。私はそういう支援をイメージしています。
イメージしている診断士にならないといけないと私は思っていますし、中小企業診断士は経営者の苦労や悩みに寄り添いながら伴走して支援するための資格だと思っています。
経営者の家族に生まれた自分の、当時の暮らしの経験が、現在の支援現場での自分の意識に生きていますね。
今の自分の仕事はこれしかないと思っていますし、生涯この仕事でやっていきたいと思っています。
最後に、診断士を目指す方や、なったばかりの方に向けてメッセージをお願いします。
鈴木氏:絶対に「上から目線」にならないで欲しいと思います。
診断士の中にも、経営者や、僕ら支援機関の人間に対して「上から目線」でくる人がたまにいます。
バカにしてくる人もいます。でも、中小企業診断士だから偉いわけじゃない。
これは診断士でもある自分自身でもそう思っていますし、診断士になったから何でも解決できる、全知全能の神様じゃないわけです。
中小企業診断士なんて世の中に大勢いるので、診断士である自分と意見が違う経営者に噛みつくような人では困るわけです。
「どうしてそうなんですか。だから社長、ダメなんですよ」みたいなことを言う人が結構いるんです。若い人に多いです。
そうではなくて、先ほどの繰り返しになりますが、経営者に寄り添っていける人、「○○さん」って相談してもらえるような人と言いましょうか、そういう人になって欲しいと思います。
独占業務が無い資格ですが、だからこそ幅広い知識を生かして、経営者の良き相談相手になって欲しいですね。
これもよく言うんですけど、相談を寄せる経営者にとっての「かかりつけ医」になって欲しい。
大学病院のスーパー外科医じゃなくていいんです。
最初に「どうしました?」って悩みを聞いてあげられる。
そういう存在であって欲しいと思います。