マーケティング

ランチェスター戦略とは?中小企業が勝つ弱者の戦略を解説

戦略

中小企業は大企業と比べて、資金、人材などあらゆる面で不利だと感じていませんか。

最適な戦略を立てて実行すれば、中小企業も十分利益を得ることはできます。

中小企業が大企業に勝つための基本的なマーケティング手法「ランチェスター戦略」を解説します。

中小企業関係者だけでなく、どうしたらライバル企業に勝てるか日々考えているビジネスマンにも最適です。

ランチェスター戦略とは

ランチェスター戦略とは、弱者が強者に勝つための戦略です。

ビジネスでは、中小企業が大企業に勝つためのマーケティング戦略として役立ちます。

ビジネスにおける「弱者」にはシェアNo1企業以外のすべての企業が含まれ、多くの場合中小企業が該当します。

一方で「強者」とは基本的にシェアNo1の企業のみを指します。

ランチェスター戦略を解説する前に、その基本的な考え方であるランチェスターの法則を解説します。

ランチェスターの法則とは

ランチェスター戦略の基本法則は2つで、

  • 弱者の戦略であるランチェスター第一法則
  • 強者の戦略であるランチェスター第二法則

があります。

ランチェスターの法則は第一次世界大戦で基本戦略として用いられ、その後ビジネスへ活用できるように体系化されました。

ランチェスター法則の基本的な考え方

ランチェスター法則は以下の考え方に基づいています。

  • 数が多いほうが有利であり、少ないほうは不利である
  • 数が少ないほうは第一法則にしたがい局地戦、接近戦、一騎討を行う
  • 数が多いほうは第二法則にしたがい広域戦、遠隔戦、確率戦を行う

つまり数が少ない弱者は第二法則の戦い方を避けて、第一法則の戦い方に持ち込むことが重要です。

それでは第一法則と第二法則について詳しく解説します。

ランチェスター第一法則~弱者の戦略~

ランチェスターの第一法則は、局地戦や一騎討、接近戦での戦い方を示します。

この場合、武器効率と兵力数の掛け算で戦闘力が決まります。

武器効率が同じ場合は兵力数が多いほうが勝ちます。

例えば5対3で同じ武器効率で戦えば、5-3で2の差で勝つことになります。

ビジネスにおいては、自社にとって有利な領域に絞る戦い方です。

ランチェスター第二法則~強者の戦略~

ランチェスター第二法則は、広域戦、遠隔戦、確率戦(集団と集団の戦い)を示します。

例えば、互いにミサイルなどの広域な戦闘用の武器をもって戦う場合などが該当します。

この場合、戦闘力は武器効率(質)x兵力数(量)の2乗で決まります。

武器効率が同じ場合、兵力数が大きいほうが圧勝します。

ビジネスにおいては、大きな市場や総力で勝負する戦い方です。

ランチェスター戦略の活用に必要なマーケットシェア理論

マーケットシェア理論とは、ランチェスター戦略をビジネスに応用する際に用いられる理論です。

マーケットシェア理論を使うと、ビジネスにおける強者と弱者の区別を判断することができます。

自社には第一法則と第二法則のどちらが適しているのか、的確に見極めるため確認しておきましょう。

シェア理論:No1企業=強者とは

ランチェスターの法則をビジネスに応用する際にテーマとなるのが、シェア(市場の占有率)を上げることです。

市場においては強者か弱者化かで戦略が変わります。

強者として必要なシェアの目安は3つあります。

  1. 73.9% 上限目標値
    独占状況であり、圧倒的なNo1の状況
    2位以下が逆転するのは非常に難しいシェア
  2. 41.7% 安定目標値
    ほぼ一人勝ちの状況
  3. 26.1% 下限目標値
    強者の最低条件のシェアであり、最初に狙う当面の目標値
    市場に影響力を与えることができる状況

仮に1位であっても26%を下回るようであれば、いつ逆転されるか分からない不安定な状況です。2位以下も同程度のシェアの企業が多く、非常に厳しい戦いを強いられ利益をあげるのも難しいでしょう。

そのため、強者の下限目標値は26%以上となります。

また、安定目標値までシェアを伸ばせると、2位以下の企業がその市場において逆転することが難しい状況にできます。

シェアが高いことのメリット
  • 規模の経済が働き、安く仕入れをすることが可能
    結果として、価格競争になったときに有利に進められる
  • 取引先や顧客が増え、その結果として市場情報を多く得られる
    その情報を活かした新製品・サービスの投入や販売戦略の立案などを下位企業に先んじて行える
  • 業界トップという実績から信頼を得られ、顧客から選ばれやすい

シェア理論:弱者とは

強者ではない弱者における、シェアの目安は4つあります。

  1. 19.3% 上限目標値
    強者ではないが、弱者の中での強者
    上位でも競合との圧倒的な差はない状況
  2. 10.9% 影響目標値
    市場に影響を与えられるようになる目標値
  3. 6.8% 存在目標値
    競合から存在は認められているが、市場には影響を与えない
  4. 2.8% 拠点目標値
    市場に参入する足がかりとなる目標値

まず弱者として市場に参入できるかどうかの目安は2.8%以上です。

シェアが2.8%を下回っていると、ランチェスター戦略を用いたとしても生存すること自体が難しくなります。基準値として覚えておきましょう。

ランチェスターの法則を活用するビジネス戦略

実際のビジネスにおいて、ランチェスター戦略がどのように活用できるのか説明します。

強者か弱者かによって、基本的な手法は以下のように異なります。

  • 強者:他の企業の模範戦略で戦う
  • 弱者:特定の領域に絞って戦う

それぞれの戦い方を実際の成功事例とあわせて見ていきましょう。

シェアNo1企業の強者の戦い方

強者であるシェアNo1企業は、ランチェスター第二法則を活用することで有利にビジネスを進められます。

ビジネスでの第二法則の基本は、ミート戦略=他の企業の模倣戦略です。

弱者を真似ること、例えば似たコンセプトのサービスをしたり、値段を合わせたりなどすることで、資本力のある強者は弱者より有利に進めて圧勝できます。

また価格戦略においては、強者は2タイプの製品を出し、1つは下位企業より安く、もう1つは高い製品とすることで、挟み撃ちにして市場を占有することもできます。

弱者に勝った後で、それらの戦略が自社にとって長期的には不都合であればやめればよいのです。

強者の事例:パナソニック

パナソニックがまだ松下電器産業だったころ、他の家電メーカーの新製品と同等品を後から出して戦うという戦略をとっていました。

家電業界では”マネシタ”電器という言葉があったほど有名な話でした。

松下電機の当時の強みとして、高い技術力と確立した販売網(地域の電気店との圧倒的なネットワーク)があります。

高い技術力を利用して競合品を研究し、さらに機能を1つか2つ追加した類似製品を早期に市場に出すことができます。

その上で販売網を利用して、競合品より多く販売することができました。

ランチェスター第二法則により有利にビジネスを進めた成功事例です。

弱者の戦い方

兵力数(資本)が少ない弱者である中小企業は、第一法則で戦うと損害を減らすことができます。

基本的な戦い方としては、市場全体で戦うのではなく、特定の領域(局地戦)に絞りって戦います。

その中で差別化を図り、自分たちに有利な条件にすることでシェアNo1企業とも戦えます。

  • 局地戦
    特定の領域、市場や地域、顧客層を限定することです。
  • 一騎討
    局地戦で限定した市場で、競合が少ない(理想定期には一社またはまったくいない状況)で戦うことです。
  • 接近戦
    直接顧客と1対1での接点を持つような営業活動
    顧客と直接やり取りをするため、顧客ごとのニーズを細やかに拾えます。
    また、プロモーション活動において、多量にお金をかけた広告活動(遠隔戦)ではなく、口コミ中心に顧客開拓を図ります。
  • 一点集中主義
    絞った領域の中で断トツの一位を狙うことを”一点集中主義”といい、ランチェスター戦略の中で重要な考え方です。
    ”商品”、”地域”、”ターゲット”などを細分化し、その中から重点化したセグメントを選び、集中的に攻めることで特定の領域での高いシェアを狙います。
  • 陽動作戦
    競合相手の裏をかく戦法です。
    事例:あえて朝専用コーヒーと言い切った”ワンダ・ミーニングショット”は一般的には飲む時間帯はあまり関係のないコーヒー飲料に対して、時間帯を指定することで訴求力を高める陽動作戦と言えます。
  • 足元の敵攻撃の原則
    自社が2位だった場合、狙い撃つ競合他社は1つ上の1位企業ではなく、一つ下の3位企業です。
    自社より強い企業と戦った場合、ミート戦略や体力勝負の価格競争のリスクなどがあり勝てる可能性が低いからです。

弱者の事例:創業当時のHIS

創業当時のHISは、当時メジャーであった国内旅行のパッケージツアーではなく、海外格安航空券に注力しました。

大手旅行代理店はパッケージツアーに添乗員をつけて利益を稼いでいたため、HISの戦略をすぐまねすることは既存ビジネスへの影響を考えると難しかったのです。

一方HISは海外格安航空券に注力して、学生や若者を中心に顧客を一気に獲得し、一点突破で現在の地位を築きました。

中小企業でのランチェスター戦略の活用方法

それでは弱者の戦略であるランチェスター第一法則を活用した、具体的な応用方法を考えていきましょう。

前述したように、ランチェスター第一法則は局地戦で且つ接近戦で戦う戦略です。

ビジネスで考えると、有利な領域で差別化して戦う必要があります。

狙うべき顧客層を明確に分けて注力することが重要です。

そのために必要な視点は

  • 地域
  • 製品・サービス
  • 品揃え
  • 販売方法
  • 顧客との関係性

などがあります。

それぞれ考えていきましょう。

地域を絞る

地域を絞ることで自社に優位な状況に持ち込む考え方です。

例えば、東日本→東北→山形→xx市と限定することで、特定地域内での有利な戦い方を目指します。

地域密着型のサービスや、地域内のネットワークを活かした営業活動などがこの考え方にあたります。

ニッチな層への製品・サービスを特化する

特定のユーザーに向けた製品やサービスに特化することで、有利に戦う考え方です。

ごく少数の人に刺さるニッチなマニア向けの製品やサービスは、一般的な人からは多く購入されないため、大企業には参入しづらい市場で優位に戦えます。

ただし、欲しいと思う人が少なすぎると、ビジネスとして成り立たなくなる可能性があるので見極めは必要です。

特定の製品のみ品添えをする

小売りビジネスの場合、製品のラインナップは狭く深くすることで専門性も持たせ差別化することができます。

例えば書店の場合、歴史書だけラインナップするなど特定のジャンルでの販売をするなどが該当します。

この店に来れば一通りのラインナップが揃っていると思わせることで、特定ジャンルの製品が欲しいという顧客層に訴求できます。

販売方法

特定の販売チャネルのみで販売する方法です。

例えば、近年ですとコロナ禍の影響もありデリバリーサービス中心に販売するタイプの飲食店が増えてきています。

店舗を持たない、または最小化することで店舗運営に必要なコストを減らし、利益の最大化につなげることができます。

密な顧客との関係性を構築

特に地域型のサービスと相性の良い考え方ですが、常連客や地域ネットワーク内で顧客と深い関係性を築き、その中でビジネスを進めて安定的な基盤を獲得します。

大企業ではターゲット層を広く狙っているため、関係性を築くこの方法はどうしても難しい領域です。中小企業のほうが有利に働く可能性が高いです。

関係性を築いた顧客に対して、より満足度が上がるような製品ラインナップを構築したり、口コミなどによりネットワークを拡大して売上増を図ることができます。

まとめ

ランチェスター戦略は、弱者であることが多い中小企業が生き残るために必要な考え方です。

ランチェスター戦略を実施するためには、局地戦で勝つ、つまり有利な状況で差別化して勝つ必要があります。

  • 地域
  • 製品・サービス
  • 品揃え
  • 販売方法
  • 顧客との関係性

の視点で、強者である大企業や競合他社より有利な状況を構築しましょう。

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しばたろー
大手素材企業でマーケティング、新規事業創出、M&A、スタートアップの事業化支援などに従事しながら、中小企業診断士としても活動。 専門領域は中小企業のマーケティング、新規事業創出、オープンイノベーション。