戦略

中小企業こそ海外進出すべき4つのメリットと成功するために知っておきたい課題

少子高齢化、長引く不況により、マーケットを日本から海外に移転する中小企業が増えています。

さらに日本では、安い海外製品や大手企業のPB商品によって、国内では中小企業が太刀打ちできない価格競争が起きています。

これ以上の安売りはできない、経営コストを抑えたい、販売先を増やしたい!

そういった中小企業にとって、海外進出は希望の光となるのでしょうか。

この記事では、中小企業が海外進出するメリットや、成功するために知っておくべきことをまとめています。

海外進出に伴うリスクも把握したうえで、計画的に検討していきましょう。

日本企業が海外進出する2つの目的

「海外進出」と一言でいっても目的はさまざまです。

日本企業が海外進出する際の大きな目的として2つあげられます。

自社サービスの販路開拓

まず、自社サービスの販路開拓として行う海外進出です。

日本のショップや商品を海外で展開・販売します。

飲食チェーンであるサイゼリヤは、中国に293店舗、香港24店舗、台湾12店舗、シンガポール16店舗あり、コンビニエンスストアのファミリーマートは台湾で店舗展開をしています。

このように、出店を日本国内に限定しないことでマーケットを広げています。

商品であれば、使い捨てカイロが中国で圧倒的な人気商品となっていますし、キッコーマンのしょうゆはアメリカのしょうゆ市場の50%以上を占めています。

自社サービスの生産拠点

原材料費や人件費を抑えるために自社サービスの生産拠点を海外に移すための海外進出もあります。

日本よりも人件費の安い国で製造し製造コストを抑えることで、日本で販売する時に類似商品よりも低価格で販売できます。

中小企業が海外進出することによるメリット

海外進出と聞くと大手企業のイメージがあるかもしれませんが、中小企業も海外進出するメリットがあります。

人件費や原材料費を抑えられる

日本よりも人件費が安い発展途上国を製造拠点にすることで、人件費を抑えることができます。

また現地で安く原材料を入手できる場合、現地で原材料を揃え、製造したものを日本で販売した方が安く販売できます。

一時期、大手企業がこぞって中国に工場を作ったのも、人件費削減が目的でした。

ただ、最近は発展途上国も経済が発展し、賃金があがっているため、人件費を抑えるメリットは薄れてきています。

とはいえ、日本の最低賃金は途上国であるアジア各国と比較すると高いので、その他のメリット・デメリットを踏まえて慎重に検討するといいでしょう。

マーケットの拡大

海外進出することで、自社のマーケットを一気に拡大できます。

日本人の人口は約1億人。

対して、中国は富裕層の人口が約1億人です。

同じ1億人でも、中国は爆買いできる富裕層が1億人なので、まったく意味合いが異なります。

さらに世界には78億人いるので、日本のマーケットの78倍となります。

日本はこれから人口が減っていくので、早い段階で海外を視野にいれて動いておくことは長期的な経営にも関わってくることでしょう。

また国内では売れにくかったものの、海外では評判となるケースもあり、マーケットを広げることで得られる可能性は期待できます。

とくに最近はインターネットの普及により、簡単に海外にアクセスできるようになりました。

SNSやネットショップを使うことで、海外の人に自社商品を知ってもらうことや購入してもらうこともできます。

翻訳機能の進化により、言語の壁も低くなっています。

海外進出というと、とてもハードルが高いイメージがありますが、インターネットを活用することでマーケットを世界へ広げるという方法もあります。

税率が低い

日本に比べて税率が低い国や、外資企業向けの優遇制度を設けている国に進出する日本企業も増えています。

シンガポールは法人税が安く、税率が一律17%。

繰り越し欠損金は日本は10年と決まっているところ、シンガポールなら無期限です。

日本に比べて法人の負担が少ないため、シンガポールに拠点を移す企業もあります。

外資企業向けの優遇制度としては、経済特区などが挙げられます。

「このような優遇措置をするから、この地域の経済発展のために頑張ってね」というもので、その制度により法人税の減税などが受けられます。

そういった優遇制度がある地域に拠点を移すことで、コストを下げるという方法もあります。

海外企業とのシナジー効果

海外進出する際、自社だけで拡大するケースはあまりなく、現地企業との提携でスタートすることが多いです。

現地企業とスタートすることで、より的確に現地のニーズを捉えることができ、また節税やコスト削減といった現地ならではのノウハウを得ることもできます。

文化やトレンドがまったく異なる国との提携を通して、新しいプロジェクトや商品が生まれる可能性もあり、国内では生まれなかった展開も期待できます。

中小企業の海外進出率は?どこの国?

中小企業もどんどん海外進出しており、その数は約1.4万社(製造業は約7000社)になります。

従業員が多い企業ほど海外進出の割合は高く、従業員が51人以上の法人のうち9.4%が海外進出しています。

製造業に至っては20.1%が海外進出しています。

国別では、中国が3万2313拠点と約45%を占めており、次いでアメリカの8422拠点。

インド4590拠点、ドイツ1811拠点、インドネシア1810拠点、タイ1783拠点となっています。

中小企業が海外進出するにあたっての課題

メリットが多い海外進出ですが、課題やリスクもあります。

メリットとリスクを複合的に考えて、会社にとってプラスとなる事業計画を立てていきましょう。

税務・法務・為替リスク

海外現地の法律や規制、政治状況、治安といったカントリーリスクは必ずついてきます。

その国の政治や経済の状況によって、為替や株価が変動したり、最悪の場合は破綻することもあります。

最近では、スリランカが財政破綻し前大統領が逃亡するということがありました。

タイではデモやストライキが頻繁に発生します。

その国の経済や文化などを把握しないまま「人件費が安い」といった理由で参入するのは危険といえるでしょう。

また法律の関係で、商品化や事業展開できないサービスもあります。

法律や文化、税務に関することは、知らないと大きなリスクになりますが、事前の調査を徹底することで防ぐことのできるリスクでもあります。

必ずその国のことを調べるようにしましょう。

為替に関しては、円安になると輸出する分には利益を出しやすいですが、輸入する場合は物価高となり利益を出しにくくなります。

為替の変動はあらゆる要因で起こるため、自分でコントロールできるものではありません。

そのため、いろんな可能性を踏まえてリスクヘッジする方法も検討しておきましょう。

マネジメントの負担増加

途上国やアジア各国の最低賃金は上昇しているため、むかしほど人件費を抑えられる訳ではありません。

また、その国ごとに働くことへの意欲なども異なります。

日本人は世界的にみても真面目で、遅刻しませんし、上司の命令なども従順に聞く傾向があります。

しかし、遅刻は当たり前、追加の仕事を依頼すると賃金交渉される、叱るとストライキされるといったことが起こる国もあります。

現地の人をマネジメントできるリーダーがいないと、かえって人件費や教育コストがかかることもあるでしょう。

宗教や文化の違いの把握

言語はもちろんですが、その国の文化や宗教を理解していないと思わぬトラブルに発展することもあります。

イスラム教のハラールマークは日本でも一般的になってきました。

その他にも、日本では違和感なく使われているけど、海外では差別用語になったり、ジェンダー問題に発展することもあります。

たとえば、日本では「白黒つける」「白星=勝ち」といった表現をします。

もともと「白黒つける」の語源は囲碁からきていますが、海外で白黒で識別する表現は黒人差別となるのでタブーとなっています。

ほかにも、身体的特徴を話題にするのはタブー視される国もあります。

褒め言葉でも、自虐であってもです。

国によって文化や考え方は異なるため、その国の慣習は必ず把握しておきましょう。

販売先・取引先の確保

海外に出店したとしても、販売先や取引先がなければその後の展開は見込めません。

そのため、事前にしっかり調査し、先に取引先などを作ってから海外に拠点をうつすのが得策といえるでしょう。

中小企業が海外進出で成功するためのポイント

メリットも多い一方でリスクもある海外進出。

成功するためには、どういった点を意識すべきなのでしょうか。

そのポイントについて解説します。

現地の法律、税務、慣習の把握

カントリーリスクを最小限にするため、まずはその国のことを徹底的に調査しましょう。

現地に行き自分の目で見て確認したり、現地の人から直接はなしを聞いたり、すでにその国で事業展開している人に話を聞いたりして、多方面から情報収集しましょう。

その上で、自社のサービスがその国に受け入れられるのか、可能性があるのかを検討したり、現地の人に向けてローカライズしたりしていきます。

販路の開拓

自社製品のマーケットを広げたい場合、重要なポイントになるのは有効な販路をいかに確保するかになります。

  • ECサイトを活用する
  • 海外商社の活用
  • 展示会への出展
  • 自社の海外営業支社の設立

などが手段としてあります。

ECサイトはある程度のノウハウがあればすぐに始められる一方で、ユーザーメリットを如何に伝えるか、またECサイト内で上位に検索されるための施策などがポイントとなります。

並行して海外商社の活用や展示会への出展も行い販路を獲得を目指すといいでしょう。

自社への営業拠点を海外に持つ場合は固定費がかなりかかるため、一定の成果が出た後の次のステップとするのをお勧めします。

撤退戦略も重要

進出する前に撤退する条件なども設定しておくことで、大きな損失を防ぐことができます。

撤退=失敗ではなく、大きな失敗を避けるための撤退基準を決めておきましょう。

現地の人材育成

海外の人材育成を行う場合、その国の文化や価値観なども踏まえた上で教育する必要があります。

「人前で叱る」という行為が日本以上にタブー視されている国は多く、ミスを叱ったことで翌日にスタッフみんながストライキを起こすということもあります。

また日本のような終身雇用制度はなく、1つの会社で勤め上げるという考え方が少数派である海外は人材の定着率も低いです。

流動性がある分、優秀な人材を確保しやすい一方で、一生懸命育ててもすぐに辞めてしまうというデメリットもあります。

海外の人をうまく育成できるマネジメント能力が求められます。

目的を明確にして採算が合うのか事前調査が鍵

海外進出する主な目的は

  • 自社商品のマーケットを広げる
  • 製造拠点を海外に移す

のどちらかになるかと思います。

この目的によって、円安円高によって受けられる恩恵は変わります。

すでに取引先があるのか、現地の文化とマッチしているのか、現地でマネジメントできる人材はいるのかなど、総合的に考えて採算があうのかを検討しましょう。

受けられる支援

海外進出する場合、大きなコストがかかります。

そのため受けられる支援を有効に活用しましょう。

【経産省】国内・海外販路開拓強化支援事業

地域経済の活性化や地域中小企業の誘致のため、地域資源を活用した新商品・新サービスの開発や販路開拓に意欲的に取り組む中小企業を支援する補助金制度です。

地元の資源を使った商品を海外に売り出すための展示会の出展や、新サービス開発のための市場調査の際などに、経費の1/2以内、上限500万円の補助が受けられます。

中小企業海外ビジネス人材育成支援事業

海外ビジネスの基礎スキルとして、海外展開戦略の策定や商談資料の作り方が学べる育成塾もあります。

英文ビジネスメール講座や、海外展開時の商談プレゼンの指導、現地の市場ニーズや慣習などに合わせたアドバイスなどを受けられます。

情報源がない場合は、このような育成塾を受講してみるのもいいでしょう。

ジェトロ主催の中小企業海外ビジネス人材育成塾は、無料で参加できます。

目的を明確にもち、計画的に海外進出しましょう

マーケットの拡大やコスト削減目的で海外進出する中小企業は増えています。

しかし、日本にいたら検討もつかない文化や法律などもあり、リスクも伴います。

必ず、現地のことを調べ、採算が合うことを確認した上で、計画的にすすめていきましょう。

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しばたろー
大手素材企業でマーケティング、新規事業創出、M&A、スタートアップの事業化支援などに従事しながら、中小企業診断士としても活動。 専門領域は中小企業のマーケティング、新規事業創出、オープンイノベーション。