中小企業診断士

シュー・ツリー・コンサルティング代表取締役 辻井修二 インタビュー【後編】

今回は弊社代表であり、資格の学校TAC講師歴20年、レジェント級中小企業診断士の辻井修二さんにインタビュー。後編では現在の主業である「企業研修」を中心に詳しくお聞きしました。前編はこちら

診断士になられてから10年目を越えた頃は、どのようにお仕事をされていましたか?

企業研修の講師の仕事が多くなったのは、この12、3年くらいかな。

診断士受験時代に知り合いになった4人の仲良しグループがありまして、そのうちのひとりであるMさんが、合格してコンサルティング会社に転職したんです。その後全然連絡をとっていなかったのですが、Mさんは出世しコンサルティング会社で取締役になっていました。

10年くらい経った頃、私がTACで登壇していると噂で聞いて、「実は今、こんな仕事をしていまして。一度お話しませんか」と連絡をいただきました。

そして、私がその会社の会議室で営業の方が一周まわるくらい大勢いる中で、急遽プレゼンをすることになって。「私はこんなことができます」というのをPowerPointで説明したら、興味を持ってくれた方がひとりいて、「研修案件をお願いできますか」とご依頼いただいたんですね。

その後、その方が「辻井さんすごくいいぞ」とクチコミで触れ回ってくれて。2、3年くらいでその会社の仕事をたくさんいただけるようになりました。

それが大きなきっかけで、企業研修講師の入口になり、今はいろいろな研修をやっています。

企業研修のメニューはたくさんありますが、どのようなテーマを依頼されますか?

経験が十分じゃない講師が「何でもやります」と言うと案件は来ないので、最初はニーズが一番高そうな「ロジカルシンキングができます」と言いました。

ただ、私のベースが中小企業診断士だったので、最初は「経営戦略」の研修でしたね。2回目は「マーケティング」で、2度とも大手企業からの案件でした。最初は全然ロジカルシンキングではなかったです。

区役所や商工会議所の実績なども伝えていたので、割と幅広く「辻井さん、これもできる?」と聞いてくれるようになりました。診断士取得後もひたすら勉強して経験も積んでいたので、お声掛けしていただいた案件でまったくできないものはなかったと思います。

実施までに時間がいただけるものは「作ります!」と言って、お声がけいただいた案件の研修コンテンツを片っ端から作っていきました。

だから、最初のころは大変でした。

特に財務研修はやる前には相当時間をかけて準備しましたが、一回作れば使い回しできますし、今は当時ほどの苦労はないですね。

それが下地になって、私の一番の強みが「研修コンテンツのカスタマイズ力」になりました。例えば、課長研修ならその企業の課長クラスの課題を丁寧にヒアリングして、クライアントに合わせて「これとこれとこれ」をつなげてストーリーを作ってみたいな感じで、弁当で言うなら「オリジナル幕の内弁当」みたいなのを作っちゃう。

だからビジネスに関しては、よっぽど特殊なことじゃなければ、どんな案件でも受けられます。5年くらいはとても苦労したかなと思います。

依頼された案件のコンテンツを作り続けて。今でも毎年少しずつ増やしています。

今後も新たなテーマが来た時には引き受けますか?

軸は「ワクワク感」です。それをベースに「ちょっと面白そうだな」と思ったら、受けますね。

IT系はやらないですが、案件のひとつにイノベーションがあるので、今どきを知っていないと仕事にならないのですよ。

だから、現場で使われているDXとか、世の中のニーズがこう変わっているとか、とにかくアンテナを立ててひたすらキャッチしていかないと、仕事にならない。

そういう視点で見ると、日経新聞も面白いですね。仕事になりそうなことはキャッチしています。

日経新聞以外にはどのように情報収集をされますか?

インターネットはもちろんですが、大事にしているのは「人との話」かな。

例えば地方でタクシーに乗ったら、タクシーの運転手さんからいかに情報を引き出すか考えます(笑)。

それこそ自分でやってみてナンボだとすごく思うので。昨年の夏は「X」を結構やりましたね。実体験をベースにしないと意味がないと思っているので。

とにかく「自分で体験してみよう」「行ってみよう」という思いは強いです。

お話するときの年齢層はどのような感じですか?

仕事上でいうと幅広くないと意味がないです。

企業研修では新入社員から、一番高いと経営者クラスまで様々なので、休憩時間にいろいろな人ととにかく話すようにしています。例えば若手社員だと、20歳、30歳年上の上司が何を考えているのか気になるので、「おじさんたちは、こんなこと考えてるんですよ」みたいな話をして。逆に若手社員から、今の流行を聞いたり。橋渡しをしながら話を盛り上げるケースが多いかなと思いますね。

診断士は「会話を楽しむこと」が重要だと思いますね。

診断士はコミュニケーション力が低かったらできないんじゃないかな。TACでも「コミュニケーション能力が著しく低い人は、良い仕事ができませんよ」ってよく言っています。

仕事の割合について教えてください。

今はコンサルティング系、企業研修系、TAC講師の三本柱で仕事をしています。割合は10のうち6割が企業研修講師で、コンサルティングが2割、TAC講師が2割。

正直、TAC業務の効率が一番悪いですよ。2次対策の添削業務を含めると、私の仕事量の3分の1くらいは使っています。添削って、ものすごく大変ですよ。それでもやっぱり私の中で「ワクワク感」が最優先なので。受かった後にみんなで喜び合いたいから、添削もがんばってやっています。

添削は専門の添削講師の方にお願いしてもいいのですが、自分でやると見えてくることがたくさんあるので。やっぱり、生データへのアクセスは重要です。自分の添削結果を踏まえて、クラス全体の弱点や強化点を見ながら講義内容を毎回コントロールしています。

これまでに特に印象に残っている出来事や、人がいましたら教えてください。

診断士のNさんは一番感謝している「出会い」ですね。仕事もいただいていましたし、講師としてのトレーニングもしてくれたり、サシ飲みも何回も誘ってくれて、Nさんとの出会いが一番大きいです。

あと私の恩人を挙げると、TACで教わったY先生。TACは私が受験していた当時、2次試験対策がなかったので、2次試験対策はマンパワーに通っていました。でも、私が「合格しました!ありがとうございます!」ってお礼のあいさつに行ったのはTACのY先生なんですよ。

このおふたりは、私の中ですごい恩人と思っている人ですね。

ちなみに、マンパワーで仲良くなったのが、先ほどのコンサルタント会社で取締役になったMさん。やっぱり「人」との出会いは重要です。

TAC講師のお仕事について教えてください。

初年度からTAC講師やっているので、たぶん22年になります。

お声が掛かったのは講師ではなく、教材作成なんですね、実は。

その流れの中で、「辻井さん、講師もどう?」という話になって。私はしゃべるのは嫌いではなかったので「やります」と伝え、その年の夏にデビューしました。

デビューの時にやらかしまして、時間を間違えたんです。終わりの時間が4時半なのに4時だと思い込んでいたんですね。「しまった、延長だ!」と思って、ネタもいっぱい用意していたのに全部切り捨てて、終了時間よりずいぶん早く「時間になりましたので」って講義を終わらせてしまいました(笑)。特にクレームなどはなかったですけど、一回目でやらかしましたね(笑)。

受験校の講師をやりたい人は多いと思いますが、講師業はおすすめですか?

受験校の講師業は報酬的には割に合わないかもしれませんね。準備にとても時間がかかりますし。

ただ、私がいろいろな人に講師業をおすすめしているのは、人前で喋る機会を増やせること。プレゼンテーション力を上げようと思ったら、お金を払って教育機関に通うだけでは本当の実力はつかないと思っています。

本気の現場、お客様がいる前で、自分で設計をして、自分で喋る。その真剣勝負の回数の多さが大事。だから、単に話す回数の多さではないと思うんです。設計と実践の回数の多さ、これがすごく重要。

私が企業研修で一定の評価をいただいているのも、TAC講師の経験がかなり下地になっているというのは、割と自信持って言えるかな。

割合として一番多い企業研修について、詳しく教えてください。

企業研修は、年間100日から140日の登壇をしています。TAC講師の登壇は年間80日超なので、合わせると年間200日くらいは登壇していますね。

企業研修は丸一日がほとんどで、たまに半日というのもあります。

オンラインもあります。地方の企業はオンラインに切り替わる傾向が強いですね。私が企業研修をするのは大企業もしくは中堅企業以上なので、地方でも大きい会社の工場などです。

現場の方向けの研修では、問題解決系とか、ヒト系、ロジカルシンキング系などが多いです。

単価をコントロールできるようになったのは何年目くらいからですか?

最初の頃は、診断協会の手帳の裏にも10万円とか書いてあるので、そのあたりを基準にやっていました。

中期くらいになると報酬の水準も分かってくるので「この仕事だとこれくらいだよね」といった感じでやっていました。

今は自分が提供できる価値に見合った額を提示させていただいています。ひたすら低価格で受けて、むだに業務量を増やすことはしません。ただ忙しくなるだけなので。

ただ、報酬が多少安くても自分にプラスになる、自分がワクワクすると思ったらお受けしています。ここは私の一番の軸なので、診断士として現役中に曲げることはないと思いますよ。

一回担当するとリピートしていただくことが多いです。例えば、最初は主任研修を担当して、「来年は主務研修もお願いします」とか「本社だけでなく工場の方でもお願いします」と、一社から案件がどんどん増えていくことあります。

依頼を増やすためには、受講生の評価、評判がよくないと呼ばれないですよね。

受講生の評判はもちろんのこと、事務局の評判もよくないといけないです。

あとは、案件を振られたときに「できますよ」と言える下地があるかどうかじゃないですか。ロジカルシンキング研修をやっていて、「ファシリテーション研修もできますか?」って聞かれたら、即答で「できます」って言えることが大事です。

セミナーでトラブルはありますか?

いくらでもあります。マイクがイマイチなんていうのは普通です。

「講師が来ない」というトラブルは最悪なので、会場が遠方でなくても前泊するとこが多いです。クライアントが大手企業や中堅企業なので、受講者を全国から集めていますから、穴を空けてしまうと大変なことになります。

トラブルに柔軟に対応する力が重要です。トラブルを乗り越えてこそ、またお声が掛かると思っています。

むしろ、ピンチはチャンスですね。

三本柱のもうひとつ、コンサルタント業務について教えてください。顧問契約はどのくらいありますか?

古くからのお付き合いの2社だけなので、全然少ないです。あまり持たないようにしてます。

持たないようにしている一番の理由は、安定期は本当に安定しているんですけど、トラブルなど何かあった時には業務量負荷がすごく増えるので、コントロールしにくい点が、あまり私が好んでないところです。これからもそんなに増やすつもりはないです。

コンサルタントを長く続けられる理由、要因は何ですか?

長くコンサルタントをやり続けたいというのは、自身の使命だと思っているからと相乗効果があるからです。

この一年くらいはあまりできていないのですが、小規模の、ほんとにひとりでやっている企業を継続的にご支援したいと思っています。専門家相談のような。「現場力を忘れたくない」というのも大きな理由です。

企業研修の講師でも、コンサルタントを名乗っているけどコンサルティングをやってない人って、結構いるんじゃないかなと思っていて、それはよくないと思っています。

現場で自分が実践したことを研修コンテンツに入れたり、新しい理論を身につけたらそれをコンサルティングの現場で使ってみたりとか。そういう相乗効果は大事だと思っています。

本当は書く仕事もやったほうがいいだろうとは思います。「診る」「話す」「書く」は全てやったほうが相乗効果がありますね。

STC(シュー・ツリー・コンサルティング)について聞きたいと思うのですが、立ち上げた経緯を教えてください。

STF(シュー・ツリー・フォーラム)という飲み会を20年近く前からやっていて。

その時に、せっかく診断士が集まっているのだから、みんなで何かできないかという話になったのですよ。それで任意で集まって、設立当初のメンバー10人くらいで「STFプロ」という任意団体を作りました。

月一回程度集まっていましたが、やはり任意団体だと仕事は全然とれないということと、入ってはきたけど辞めてしまう人が多くて。せっかくプレゼンテーションの練習を一緒にやったのにすぐ辞めてしまう人が何人もいたので、「これでは時間がもったいないな」という話になり、「きちんと来てくれる人」「長く来てくれる人、少なくとも長く来る前提の人」だけを迎え入れるようにしようということで、法人兼出資金制度にしました。

当時「みんなで集まったからといってもいいことないでしょ」と思ってる人は周囲に結構いました。

でも10何年やってみて、私ひとりではできなかったなと思うことが結構できているので、やってよかったなと思っています。

私にとって学びにもなりました。

これまでの経歴をお聞きしましたが、診断士になられて一番良かったことは何ですか?

一番かどうかわからないですが、仕事が楽しい。これは最初に思うことですね。

とても忙しいですが、ずっと楽しかったですね。

大変なこともいっぱいありましたが、飽きない。

診断士の仕事自体はおすすめです。コンサルティングでも、研修でも。

その源泉は「ワクワク感」でしょうね。自分で設計して自分でできる。「やらされ感」は少ないですし。

あとは、感謝してもらえることかな。それはありがたいですよね。

TACの講師もそうですが、講師って大変だけど、自分も楽しくて、終わった後すごくみんな感謝してくれて。

いま、STCでみなさんと一緒に仕事ができて。そういう、人と人とのつながりができていくという嬉しさがあります。このふたつは大きいです。

診断士やっていてよかったなと。クライアントにも感謝してもらえますしね。

診断士は刺激がありますよね。初期、中期は診断士とのつながり、中期くらいから、他の士業の人とのつながりが増えて、今はむしろ診断士以外とのつながりの方が多いです。

研修講師は相当競争が激しいと思っていまして。

他の講師の方と一緒に組んでやることはいっぱいあるのですが、その人たちの経歴や実績がすごいです。スキルもめちゃくちゃ高いですし、刺激になります。

だから、診断士の人たちも、最初は診断士同士のつながりがすごく重要だと思うので、どんどん作ってもらいたい。

でも、視野を広げるようなことをしないと、一皮むけないだろうなって思います。私の場合それも、いま楽しいことのひとつです。

競争を勝ち抜くには、何が必要でしょうか?

やっぱり「自分のスペシャル」です。「自分のスペシャル」というのは、お客様にとってです。

研修でもコンサルティングでも、一回担当して「この人いいわ!」っ感じていただけたら、もう一回お願いしようって思ってもらえる。

メシ屋と一緒です、きっと。メシがうまかったら、もう一回行くじゃないですか。理屈じゃないですよね。

さっきも言ったのですが、いろいろなジャンルの知識やスキルを組み合わせる個別対応力にはそれなりに自信があって、同業者で私よりカスタマイズができる方は、そう多くはいないと思っています。

あと、15年前の私が“シンガー(他の人が作った歌を歌う人)”ならば、今の私は“シンガーソングライター(自分で歌を創って歌う人)”みたいになれているのかなと思っています。

スマイルカーブで言うならば、上流からできないと付加価値が高まっていかないと思います。

クライアントの潜在的なニーズを理解して最適な提案をし、どういう研修構成にするか。そして、それをきちんと結果に出す。

最近は、ただ研修をするというより、半分コンサルティングみたいな案件が多いですね。

受講者が研修で学んだことを自身の現場に落として、十分な成果が出せるようにサポートする。

格好よく言うとソリューションなんでしょうけど、そういうのが一本できると、競争の中で生き残れるのではないでしょうか。

「提案しても、相手の方が動いてくれないと意味がない、コンサルとして0点だ」ってよくおっしゃっていますが、その先動いていただけるところまで踏み込んでいけるかどうか、そこが勝ち抜ける競争力ということですね。

20年かかっていますけどね(笑)。苦労しました。

お休みはあるのですか?どう過ごされていますか?

休みは先に取ってしまうんですよ、いつも。手帳の中にポンと入れて、周りの人にも自ら見せて、「ここ休みですから」と。

私の休みが少ないのはみんなわかってくれているので、「休んだ方がいいですよ」って、このご時世みなさん言ってくれますね。

旅行とか、劇とかミュージカルなどにも行っています。

私が自分でいつも思っているのは、「時間を垂れ流すのはやめよう」と。

「働いている」か「楽しい」か。「無」の時間を減らしたいです。

最後に、受験生やこれから診断士目指す方、若手診断士、経験浅い診断士に向けてメッセージをお願いします。

まずは診断士の仕事を「楽しむ」のが一番だと思っています。

自分なりの価値観、私は「ワクワク」ですが、なにか軸を一個持って、大変でも、その大変さを引き受けたら、その先に何倍も楽しいことが待っているから、頑張ってもらいたいです。

私は人生が大きく変わりました。

人生の振り幅は診断士で一番くらいだと思いますよ、1日100円で生きていたので(笑)。診断士受験時代は、ボロボロのアパートの部屋で蛍光灯が切れてもお金がなくて替えられなかったんですけど、いま我が家のダイニングにはちょっと素敵な北欧のライトがついている、くらいの振り幅です(笑) 

きっとすごく楽しくなるので、今の苦労は買ってでもやったほうがいいんじゃないかな。

私の周りの成功している人はそういう人が多い気がします。うまくいっている人って、なんだか生き生きしていませんか?

診断士受験生も、今頑張れば人生を変えるチャンスがくると思います。まあ、合格した後が本当の勝負ではありますけどね。

診断士という資格は、ラーメン屋でいうと看板掲げるのと一緒です。

どんなにうまいラーメンが作れても、看板掲げてないお店にお客さんが来ることはないじゃないですか。だからまず、診断士という看板かかげようよと。看板掲げてお客さんが一回来たときにうまいラーメン出せなかったら二度と来ないので、そこで頑張ろうよと。

一回商売始めたらいろいろなつながりが出来るので、研鑽して、頑張っていればそのうちうまいラーメンが作れるようになると思います。そこまでの辛抱じゃないですかね。

その勝負ができるかどうかが大事ということですね。

長時間にわたり、いろいろな話をお聞かせいただき、ありがとうございました!!

ABOUT ME
アバター画像
浦 美和子
人材派遣会社で営業担当として、採用、配属後のフォロー、職場改善などに従事。2017年に中小企業診断士と国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得。現在は独立開業し、中小企業の経営支援を行う。得意分野は、人事労務・人材育成、事業承継など。